第30章 彼と共に彼を待つ
「……出来上がったのは良いんだが、出来が良すぎてしまってな、」
『出来が良すぎるって自虐なんだか謙遜なんだかわっかんないですね……』
私の言葉を聞いて、フッ、と苦笑いにも似た口元。学長がトートバックから取り出した手の先にはぬいぐるみ、てか呪骸。形状は……。
なんでだ?って私、首を傾げちゃったよ。
『……なんで悟型の呪骸なんです??』
ぐわし、と学長の片手に掴まれているのはファンシーな顔の悟。
上下の黒い服、髪を降ろし、くりくりとしたスカイブルーの瞳は刺繍されてる。二頭身から三頭身、目測だけど二十センチ程の体長。
私にとってはこのファンシーな悟、可愛いな~って思うけれど、五条悟という男に怒りを持つものにしてはぶん投げたいと思う出来かもしれない。
目を離した隙にクレヨンしんちゃんに出てくるネネちゃんのうさぎみたいな事にされるかもしれない、ボッコボコにさ?
その悟の頭を楳図かずお宜しくグワシッ!と頭部を掴んで持ってる学長。丁寧に扱ってあげてよぉ…っ!と言ってあげたい。
『……なんで夜蛾学長、呪骸をグワシしてるんです?』
「親指に…豆が出来てな……?」
『ああ、そういう……いや、中指と小指で持ってますもん、親指以外のアリバイないじゃないッスか。もしやグワシを見せたかっただけでは…?』
親指に豆は見えても他の指はがっしりとして太い、という見た目。
フッ、と微笑しながらに空いた手でサングラスをかちゃ、と掛け直した学長。
「頼んだ本人からのリクエストだな。悟以外のモデルの呪骸がハルカにくっつくのは虫唾が走るらしい」
……グワシは?
ああ、うん。見せたかった、という事ダネ…。ぱちくりと瞬きしながら硝子を見れば肩を好かせてふふ、と笑ってる。
今は呪骸の話だね、と本題の呪骸についてに私も切り替えた。
『見た目ファンシーなモンにあいつひとりで虫唾走っててどうすんねん……』
リクエストが無けりゃツカモトとかそういうファンシーアニマルになってたろうに。呪骸に嫉妬か、あの構ってちゃんは!
ずい、と向けられたただのぬいぐるみみたいな悟の呪骸。受け取らずその突き出された呪骸の顔をじっと見る。
……これはこれで十分に可愛いんですけどねっ!