第30章 彼と共に彼を待つ
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教室から皆と別れ、ひとり足取り軽くルンルンと医務室に向かってる。ドア前まではご機嫌なのを隠せない。
わ~…どんな呪骸なんだろ?あからさまにご機嫌過ぎるのをなんとか押さえても進む足は僅かにもステップを踏んじゃうような軽さ。可愛いものを生産する学長であるからこそ期待しちゃうんだよね。
そんなファンシーなモンがめちゃくちゃ好きっていうわけじゃないけれど、ゲーセンとかで可愛いなって思ったぬいぐるみとかついとっちゃう的な。
可愛いものは嫌いじゃないのさ、好きなのさ!
『じゅっがい♪じゅっがい♪』
はっきり言って楽しみなんですけどっ!だってさ、初めて見た時モルカー作ってたり、ヌーピーとかテッテーとか紛れてたもん。つまりは可愛らしいものに守ってくれる機能が付くって事だよ?
でもあまり可愛すぎるのを子供じゃないのに身に付けるのは恥ずかしいかな、とひとりキリッ!と真顔に切り替えておく。私は、何も、期待しておりませぬが?の表情をしておこう、もうドアは目の前ですし?
コンコン、と控えめのノックをして中へと入る。
医務室内は通路と違い温かく、硝子はもちろん、昨日から医務室に来ると知ってた学長も既に医務室に居た、この前と同じく診察用のベッドに腰掛けて。椅子に座っても良いのにね?予備のパイプ椅子も壁に立てかけてありますし。
入って背後でドアを閉めていると、硝子が学長からこっちに視線を向けてフッ、と笑う。
「お、ハルカ。約束通りハルカ専用の呪骸が出来たってさ」
弧を描く口紅。その笑みは微笑みではなく面白がってる笑み。
……これには"何か"あるな?と察した。期待が不安に若干変わりながらも思わず学長の方へと視線を向けながらひたひたと足音を静かに診察用の椅子に腰掛けて。
学長は傍らにトートバックをその身に寄せていた。寄せてるってか、トートバックが学長側に凭れてるというか。そのバックを片手に膝上にとさ、と乗せる学長。片手をその中に突っ込んでる。
つまりはトートバックからはみ出ないくらいの小ぶりな呪骸がそこに居るって事。硝子が面白がるんだ、固唾を飲み込んで視線をトートバックに手を突っ込んでる学長のサングラスに、私は視線を移した。
相変わらず、あまり表情を変えぬままにご機嫌だか不機嫌だか悟のように目からの感情が見えない学長は、一文字の口元が僅かに歪んだ。