第29章 赤い糸で繋がっているもの
『夜蛾、学長……?』
珍しいな、学長怪我でもしたんか?と首を傾げて見れば硝子が「ハルカ、」と空いてる椅子へと手招いてる。
「ハルカ、とりあえず座りな」
『わ、私また何かやっちゃいました…?』
「ん?そんな挙動不審になるような事、オマエはしたのか?」
『あ、う…いえ…?』
学長と硝子の間に挟まれるように、診察用の椅子がある。そこに座れって言われてるけれどこれ私が何かオイタしたって事ですかね?
最近は至極まっとうに、真面目にやってたと思うけれど……あ、悟が浮気したって思って勝手にひとり走り出した事かな?
挙動不審になりつつもそろー…とゆっくりとした動きで、小さく『失礼しまーす…』と声を出しながら椅子に座った。
硝子は座りながらじっと私を覗き込んでる。
「今日の体調は?」
『アッハイ……ちょっと熱っぽいかな、くらいで』
「そっか……まあ、暖かくしてなよ。ここはなるべく冷えないようにしてるしね」
右に硝子、その反対側の無言の圧よ。
そろ、と硝子から左側の学長を見る。
『あの、…学長は何故に……?』
京都の学長は腰の調子を治しに通ってたけれどこっちの学長は筋骨隆々。不調とは無縁そうだし……。
返事が本人の口から出る前に私が学長に聞いた事を硝子が答えてくれた。
「今、クズ……、あんたの旦那が二週間国外に居るでしょ?あいつから学長に頼み事をされたんだって」
『頼み事……?まさか、学長というスタープラチナを装備ですか?』
……それはとっても強そうだなあ、なんて脳裏に浮かべてたら、硝子にツッコまれた。「ねえよ?」って。いや、絶対に呪術師はともかく学長をひと目見て非術師で手を出す馬鹿は居ないよ?
「そもそも夜蛾学長は実体があるでしょうに…」
じゃあ何を悟に頼まれたのやら、と気になる私に硝子は私の顔を覗き込むのを止めて、視線を学長の方に向ける。
「あんたが長い眠りから醒めた時に、今後の対策としてハルカに呪骸を付けろって言ってたでしょ?あれ以降五条がハルカにべったりだったけど……まあ、いつものトラブルメーカーしたりしてさ。
この約二週間、離れてる時が相当不安だと焦ったんだろうね、あのマイペースな男でもさ」
へら、と笑った硝子。その言葉に続くように今まで黙っていた男が話し始めた。ので、私も硝子から勢いよくブン!と学長に顔を向ける。