第29章 赤い糸で繋がっているもの
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──悟が海外に出張に行って三日が経過した。
今の所、身体の具合は熱っぽいなって感じる時はあるけれど風邪ではなさそうで。相談をすればこういう初期症状もあるんだ、と硝子に聞いた。
あとひとつ重要な事。判明して打ち明けて翌日に海外出張に行ってしまった悟とは話すべき事が色々あるのだけれど。
……とりあえず、体術の時はどうすんの?と携帯で悟と連絡を取り合うと"体術の時は医務室に行ってな、絶対にお腹の子に影響あるから当たったら大変!体術は駄目!"と連絡が来た。
今までの午後の体術の鍛錬を振り返るにハードな内容であったから、どこを狙うな、とか言ってられないと察してる。特にパンセンズ。
これ、クラスメイト達にも妊娠についてまだ言ってないけれど彼が帰ってくる二週間の期間、秘密は保たない気がするな……。
この三日間で体術の時間に一度、彼の提案通り医務室に待機はさせてもらったけど。これがずっと続く…、二度三度と続くのだから早めに打ち明けなきゃ、だ。二週間だけじゃなく、九ヶ月とか十ヶ月近くまであるのだから。
本来ならば今の時点で運動は大丈夫だろうけれど、非術師ではなく呪術師となるとまた話が変わる。この世界では命の取り合いみたいなモンだから普通に腹部に強烈な打撃が入る。このまま私が黙っていてそれをされて、万が一の事があったら……。
カワグチ組では殴る蹴ると暴力を加えられたけれどあれにはなんとか耐えられても、真希やパンダのあのきっつい一撃を食らえばヤバイとしか言いようがないわ。お腹の中は大惨事……今度こそ衝撃に耐えられないかもしれない。せっかくの悟との間の命を消したくはなかった。
……あと、別に箝口令敷いてるワケじゃないし、硝子や伊地知も知ってるならじわじわと噂が流れていくと思うし?
午前中の座学中、板書をノートに書き写しつつ、ここ高校時代にやったな~……なんて少し懐かしみながら座学中ひとり悩んでいた。
言えば楽だよね。それにいつか絶対に伝えないといけない事なのも理解してる。でも、妊娠を伝える事というのは学生として穴を空けるのが決定だという事も伝える事。生む直前はもちろん、体調を崩す時だってある。産んだ後も育てていくのだし。
誰かが言っていた。
子供が出来るという事はそこから一生母となるという事。生まれたての子を見ながらに学生なんてやっていく自信は私にはなかった。