第29章 赤い糸で繋がっているもの
「じゃ、"ダーリン"でオナシャス!」
『え~…マジ?』
「マジマジ」
それはチョット痛々しい夫婦では…と口をすぼめつつ悟を見るとフンッ!と鼻で笑ってるし。
「いってらっしゃい、ダーリンって言ってキスして送り出してくれないと僕、これから二週間頑張れないの!旦那さんとして、お腹の子のパパとして頑張れなくてお仕事放棄しちゃうかも?このままだと一家の大黒柱にして自宅警備員にジョブチェンジしちゃうかもしれない!」
『分かった、分かったから興奮すな、どうどうどう』
迫る悟の胸を押し、少し自分の気持ちを落ち着かせて。
あーあー、恥ずかしくない恥かしくない。すぐ終わるもの。
『……いってらっしゃい、だーりん…』
「ンッフ!……やだもー、そうたどたどしく言うとかオマエ卑怯っ!かーわいー!」
ゲラゲラ笑ってるその頬にちゅ、とキスをして背中を見せた。笑っているから唇にしようにも出来ないし。
そして「よっしゃ」という嬉しがる声が背に聴こえて。
「……はい、録音出来た!超頑張っちゃう!ハルカとエケチャン、お留守番ヨロピク!」
『は……は?ろく、おん…?』
その真偽を確認する前に振り返った瞬間手を振って玄関から出ていく悟の姿。バタン、と閉まる扉。
ンの野郎…っ!さっきのこっ恥ずかしいセリフを録音してたのっ!?遅れて恥ずかしさに熱の集まる頬。
『二週間以内に帰ってくんな、ばーか!』
ドアに叫べば、ドアの外……少し遠くから笑い声が聴こえたような気がした。