第29章 赤い糸で繋がっているもの
……さっき、すぐに着替えて最低限の荷物をって言ってたっけ。
それを考えたら私の足はキッチンへと急いでいた。せめておにぎりでも作って持たせよう、と炊飯器の前でしゃもじやラップを用意して取り掛かる。
背後にトストストス…と靴下を履いた足音。何か荷物を持ってるらしい、その衣擦れの音に振り返った。
私の数歩先には上下黒にダウンジャケットとマフラーを巻いたアイマスクの悟が、二週間というには小さめでは?というリュックサックを背負ってる。
そのまま片手を軽く上げてにこりと笑っていた。
「じゃ、僕はもう行くよ~!もっとハルカの側に居たいけどイチャついてたら出張に行きたくなくなっちゃって、母子手帳貰いに行くことも赤ちゃんの成長を生で見ることも叶わなくなるからね~…」
む、もう出かけんのっ!?万年遅刻魔なのに?
慌てる、あっつあつのご飯を前に急いで冷蔵庫から中に埋め込む材料を出して。
『ちょい待ち、二分も掛かんないから待って、』
「ん?なになに、キミからのお願いだ、もちろん待つとも」
にっこり笑ってる悟を確認してホッとして、キッチンでひとり慌ただしく作業を開始した。
どんぶりに炊きたてのご飯とふりかけを混ぜ合わせて、きっとすぐには食べられないだろうとラップを持って、そのフィルムの上に混ぜごはんを盛る。中にサバのほぐし身やあまじょっぱい種を抜いた梅を突っ込んでご飯に包ませて。
あち、あちち…と、急いで二個分を握り、形を整えたそれらを悟のポケットに突っ込んだ。暖かいし、始めのうちはカイロにもなる。
ほんとは温かい内に食べて欲しいけれど。今は外、寒いだろうしね。
『……座ってる時とか、そういう時間にでも食べなよ。急だったから一緒に朝ごはんは食べらんないけどさー…、』
見上げるとちょっと緩い口元で笑ってる悟が両腕を広げて誘ってる。
「うん、ありがと。きゅんきゅんしちゃうあわてんぼうな奥さんを堪能して、朝ごはんのサービスもしてくれちゃって。
……あのさ、追加注文いいかな?デザートにいってらっしゃい、の挨拶が欲しいんだけど?」
この流れだし、朝ごはんを作って食べようかとおにぎりを作った際の食器などは片付けずそのままに。どんぶりもご飯粒綺麗にしたらこの後私の朝食の卵料理の調理に使うし。
悟を送り出さないと、と玄関に一緒に行くと彼はくるりと振り向いて両手を大きく広げた。