第29章 赤い糸で繋がっているもの
とりあえずはゴロゴロしてらんない。しがみつかれながらも、寒くても頑張って起きて、ベッド側の床に揃えてある部屋用のもこもこのスリッパを履いたなら朝の支度をしよう……と、洗面所に向かいながら。背後に悟が張り付きながらも移動してる。電車ごっこかな…。
『邪魔ですねー、連結解除してもらえません?ってか引き剥がそ』
「あー!朝から奥さんとイチャイチャする貴重な時間がーっ!」
『うるっさ!耳元で叫ばないで欲しいんだけど?』
ぶすくれる悟が洗面所に立つ。洗顔を済ませた私、歯磨きを…というところで明らかに何もせずに鏡前で、口元に弧を浮かべて私を見てる。
……お世話タイムかあ?と歯ブラシを咥えつつ、悟の歯ブラシに歯磨き粉を付け彼の口につっこんだ。それを"しろ"とでも言いたげに化粧時に使うことのある、収納付きのスツールを引っ張り出して彼はどか、と座った。どうやら自力で歯磨きをしないらしい……しばらく会えない分、ここで巻き返そうと(何の遅れだ??)してるのが見え見えで。
はあ、仕方ない。幼児番組よろしくこちらから歯ブラシを持ち、悟の口の中を鏡越しや時々本人を見ながらに歯磨きをする。その私が持った時点で"待ってました!"と言わんばかりの笑顔を浮かべた彼、そのまま歯ブラシを咥えてた口を開けて磨きやすいようにしてくれてるけど。
……歯並びも良いな…、この人。
チッ…やっぱり性格以外を持つ男なんだなあ。神はこの人に色々と与えすぎだよ。
片手で歯磨きをしている私の手を掴んで一度止める悟。
「……いま、なんか失礼なこと考えなかった?」
『いえ。ぜんぜん。まったく。そんな失礼な事なんて。滅相もございません』
黙らせとけ、と止めた手からすり抜けて悟の口に歯ブラシを突っ込む。文句言えないように口をこうしときゃ良いんだよ。
視線、それから眉が寄せられて鏡越しに何か言いたそうだけどとりあえず口を濯ぐ所までして、口元をタオルで拭いて。
やっと自分のが出来る、と私自身の支度を始めると多分、着替えに行ったんだろう悟がちらちら見ながら洗面所から去っていった。
『……ふー…、』
育児…じゃなかった、悟のお世話が終わったし自分の事にとりかかれる、と歯磨きと洗顔を終えて。タオルで顔の水滴を拭った後に、今日出発する彼はまだ時間はあるのかな?と心配しつつ。