第29章 赤い糸で繋がっているもの
なにかまた一言二言、海外での事件についての情報確認をした後に通話を切る悟。ポイ、とベッドに投げた携帯が滑り落ち、床にカタン!と落ちた。そんな音を聞きながらシャリシャリ頭を掻いてる悟の腕の中に居る。
片腕だけじゃない、もう片腕を私の背に回しきゅっとしっかり抱きしめられて。
『で、海外出張っていつ出るの?』
「…………今日」
ひねくれたような声色。でも確かにひねくれるだけはある、いくらなんでも急過ぎる。私もまさか今日だなんてね、たった今知ったわ。
ひねくれてる悟の顔を覗き込んで思わず声を荒げてしまった。
『今日!?随分と急だね……、』
「ん、僕は特級呪術師だからねー……こういう無茶振り任務には慣れてる。だからこうやって充電しなきゃやってらんないね!可愛くてたまらない奥さんでの充電!」
急過ぎてこれには私も寂しくはなる、かも。
そしてちょっぴり羽が伸ばせる……とは口には出さないでおこう。だらけたい時だってあるとはいえ、彼にそれを言えば私を連れて行くとでも言いながらでっかい旅行用バッグにでも詰め込まれかねないし。不法入国とか拉致とか疑われる悟は任務どころじゃなくなるね…その展開だと。
悟の背を円を描くように撫でて『ちょっぴり寂しくなるねー』と言って。私の顔を覗き込む彼がにこりと笑った。悪戯小僧の笑みってか、ロクな事言わなそうな笑み。なんだ、言ってみろ。聞くだけは聞く、その通りに行動するかは別だけど。
「すぐに着替えて最低限の荷物持って行くんだけどね、」
『……うん』
エスパー伊東コースは止めろエスパー伊東コースは止めろエスパー伊東コースは止めろ……
念じるように、その必要最低限の荷物という、バッグに詰め込まれる行為をされないことを祈りながら彼のキラキラとした、澄んだ青空の瞳を覗き込んだ。
……でっかいバッグから頭出して『Hello!』とかヤダもん。いや、しないか。
「ハルカには、玄関先で僕に絡みつくように腕を首の後ろに回しながら片足をぴっ!って背後に膝を折るようにして"いってらっしゃい、ダーリン"…って、あまーい声で僕に言ってからチュッ!……って僕の唇を奪って欲しいんだけど」
『すっげえ注文数……ラブコメ界隈の宮沢賢治かよ』
「えっへー、注文の多い旦那さんでメンゴメンゴー☆」