第29章 赤い糸で繋がっているもの
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気持ち良く寝ている中で衣擦れの音とすり……、と衣服越しに触れ合う刺激にゆっくりと意識が覚醒する。重点的に腹部を愛おしそうに撫でる刺激で眠りから覚めれば、カーテンから差し込む明かり。
……もう、朝かあ…、とあくびを噛み殺しながら直ぐ側の私のお腹に布越しに手を触れてた人を見た。
「ん、起きた?……おはよ」
触ってた犯人がにこにこと朝から嬉しそうに挨拶をして、まだ眠いながらも『おはよ、』と私も彼に返した。見るからに朝から悟は鼻歌でも歌いそうなくらいにご機嫌そう。ずっとお腹を擦ってる。生理中、お腹痛い?と撫でてくる時もあったけれど。今のこの触れ方は意味が違う。
『朝から随分とご機嫌だね、悟』
ふわ、と緩く笑みを浮かべた彼。朝から視界に眩しい笑顔。
「そりゃあ、赤ちゃんにもおはよーて挨拶してるからね。まだ眠いみたいだけど……おーよちよち~」
眠いもなにも頭とか身体も作られてないんだし意識すら存在してなさそうだけど。というかぽんぽんと指先で叩いて何をあやしとんねん。
いくらなんでも早すぎる彼を寝ぼけ眼でぼーっと見ていると、その悟のだらしない笑顔を一瞬で壊す携帯の着信。瞬間的に凍りついた表情からキレ顔となった悟は、私の腹に手を当てたままに片手で携帯を取った。
「チッ……はいはーい、ちょっと誰かな~?人の幸福の時間を阻害する人は~?んー?"い"で始まり"か"で終わる人か~?お~い?ビンタするよ、マジカムチャッカビンタ。あ゙?」
『おい、パワハラ上司』
朝早くに電話を掛ける……多分、伊地知だと思うんだけど彼も朝っぱらから大変だろうに。
朝早くからの仕事に更に悟がキレたら彼の胃に穴が空いてしまう。悟のように何割かふざけた用事で連絡するのとは違い、伊地知はただ仕事の連絡をしただけだろうにね……。
悟の舌打ちを聞き、あんたが舌打ちすんなや、と私も舌打ちして悟を見ると一瞬口をへの字にした。
「……で?なに、任務?…へー、出張!ふぅん…ふーん……。
……はあっ!?えっ、どれくらい?……二週間!?なっが!やだっ!やだやだ、ぜってえ僕やんね~~!」