第29章 赤い糸で繋がっているもの
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逢魔ヶ時から宵の口へ。本格的な夜が近付くにつれ、太陽よりも街灯が街中を明るく照らす。その照らされた歩道の行き交う人々の足跡を消すように雪がしんしんと降り積もっていく。
うーん、底冷えだ。キンキンに冷えた空気が鼻を突き刺すような……。
『へっ、……へっし!』
「なに?へし切長谷部?」
『へし切ではなく長谷部とお呼び?じゃないわ、くしゃみだよくしゃみ!寒かったのっ!』
ずず、と鼻をすすりつつティッシュを探してる私の手を悟が掴む。
彼は少し前傾体制になり私の顔を不思議そうな顔で覗き込んでいた。
「女の子に、てか妊婦さんに冷えは良くないよね~……というかさ。僕達の子を妊娠してるって分かってて寒空の下を無謀にも駆けてくのは良くないね?キミなにやってんの?」
『うっ、スイマセン……』
話は彼に打ち明ける前に戻ってしまった。これは私に非がある。よく考えずにひとり、知らない街の中を駆け出してるもん……。真剣な顔の悟を黙って見つめた。彼の瞳が少し細められて…。
「危険な目に遭わないように僕はあの後ずっとオマエの後を着けてた。ハルカに狙いを定めた呪いも何体か僕が祓ったし、変なやつが近付かないか目は光らせてた。買い物も、休憩も、客引きの男をぶん投げる所もずっと見てる。
たまにはひとりのびのびと羽を伸ばすのも良いんだけれど、僕との赤ちゃんが居るって知ってるならこういう危険な事をしないで。それを僕と約束して、今すぐに」
『……はい、もうしません…』
勘違いとは言え、少し恨んでしまったけれど、今は元の大切な人に当たる彼。その大切な人との子供を授かったんだ、今日みたいな身勝手で危険な事はもうしない。
悪いことをしてしまった、と肩を落としつつ悟に約束したら彼はにこ、と優しい顔をして「良い子、」と頭をひと撫でして。私を覗き込むのを止めて背筋を伸ばし、私の手をしっかりと握ってゆっくり歩道を進み始める。
「時間も時間だ、お腹も空いたね~…このままごはん行こうか?今から部屋で準備するのも面倒くさいしあったかいものを食べて冷えたオマエの体をあっためたいしっ!」
『ごはん…っ!え、何食べる?』
「ふふっ……ご機嫌だねえ~」
その単語で犬猫が"ごはん"という単語に反応するみたいに見上げてしまった。悟は吹き出して笑う。
……しょうがないじゃん、お腹空くのは仕方ないんだしっ!