第29章 赤い糸で繋がっているもの
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「お買い物はお済みですか?レディー?」
差し出されたその大きな手の主の声色は、優しくも少し笑みが込められていた。
──なんで、このタイミングで来るわけ……?
腹が立って悟の姿を出来るだけ視界に入れたくない、と私はフードを片手でより深く被り、正面を向いていたのを斜め下へと彼からそっぽを向く。これで悟の足元も手も見えない。ただ雪がゆっくりと溶けていく地面だけが見えるだけ。
そんな私の事を頭上で「クククッ!」と楽しげに笑う人。
「もーおっ、ハルカってば何怒ってんのっ!僕や硝子を心配かけてさあ~……機嫌治してくんないとそろそろこっちが怒るよ?」
『……会話したくない、耳が腐る。私よりもあの女の子とおしゃべりしてなよ、ドクズ』
いつも通りの言葉で声を掛けてきてさ。何を怒ってるか?そんな事を言うなんて自分がしたことをまるで分かって無さそうじゃん。
「うっわ辛辣っ!硝子のクズからカスに格落ち扱いよりキレッキレじゃん、さとるんのライフポイントにマイナス500ポインツ!…だよ!?」
……なにさ、浮気を堂々としておいて何もなかったみたいに、いつものような態度でごまかせると思っているわけ?頭にくるなあ……最低じゃん!
衣擦れの音と共にしゃがみ込んだのか、上下黒の服の膝とか上着の裾が見えて更に見えないようにとそっぽを限界まで向く。視界の外で「はあー…、」と大きなため息を聞いた。そのため息の白いモヤが視界にも表れて。
「……ねえ。僕のこと信用してないの?オマエ……」
……何を、今更。
信用を無くす行為をしたのは誰?ホテルから仲睦まじい姿を晒していたのはどなたかなあ?
そっぽを向きながら、視線だけ横を見た。黒い服と私があげたマフラーが少しだけ視界に入る。すぐに視線をそっぽを向いた先の正面に向ける。
『信用もなにも、自身のした行動を振り返ってみれば?』
「オマエさ、僕が浮気してるって思ってんでしょ?」
『そうにしか見えないよね……アレ、弁解出来るの?ラブホから男女が仲睦まじく寄り添って出てきたんだ、いろんな信用を築いて来たんでしょうね?特に肉体関係での!』
意味のない言い合いすらもしたくない、と私は立ち上がって一瞬だけ悟を見た。アイマスクを外してサングラスをしてる。女の子を送り届けた後なのかな……?