第29章 赤い糸で繋がっているもの
ここまで来たら全てに疑心暗鬼になるよね。
行き交う人間全てを疑った、青年もサラリーマンも、集団で騒いでる女の子達も、買い物袋を下げた主婦も……。
私はあまりにも危険な目に遭いすぎてた。無害な人にさえも疑心暗鬼になる、それを実感すると共にパニックになりそうでかぶっていたフードをぎゅっと更に深く被る。
──もう、帰りたい。
でもどこに?私がどこへ帰れば良いのか、わからない。実家に行けば良いのかな?高専の寮…、いや、春日の本家?誰も今の私を知らない、父方のお婆ちゃんの所なら静かに過ごせる?
それよりここはどこなんだろう?バスは、駅は?人が多くてこの人達が信じられなくて近くに寄りたくないっ!
……なにも、かんがえたく、ない。
よろよろとした足取りになった私の足元、麦やバターの良い香りのするパン屋の外壁に凭れた。
『………ぅ、』
ずっと耐えてたものが崩壊するように流れ落ちる涙。始めは温かく、その筋が冷えてスゥ、と一瞬で冷たくなる。立ってる気力が無くなって私はそのまま崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
喜ばしい事があったのに悲しさで覆われて何も考えたくなかった。このままこの降ってる雪みたいにスゥ、って消えたいくらい。歩いてた足が止まればやがて体が冷えていくのを感じた、それでも……。
視界の多くを狭めるフード。地面の近いその視界の中に皆冬仕様の足元をして右にサクサク進んでいったり、左に進んでいったり。皆、忙しないね……。
何人か私の目の前を通り過ぎていって、人が捌けた後にゆっくりと私のその視界の中で立ち止まる人の足元。黒い革靴。男性、かな……。
というか、この靴、どっかで見たような……。
その狭い視界に差し出されたのは大きな片手。その大きな手の薬指にはなんだか見覚えのある指輪が嵌められていた。