第29章 赤い糸で繋がっているもの
ああ、そうだ。私はこれから先、体を冷やさないようにしなきゃなんだ…。
今味わってる自由に浮かれるのも良いけれど、今日知った結果も受け止めなきゃ、だね。
……そう思った。そしてお腹の目立たない、私の身体の中の芽生えた命を想う。
始めこそ信じたくない、居なければ…と思った存在。医者に見てもらった結果として不幸よりも前からここに居た存在。コートの上から片手で触れたお腹。この存在は居なければ…という不幸の産物じゃない、ふたりで望んだ結果が宿った、とても喜ばしい存在だったんだって、悲しかった気持ちが晴れて嬉しかったのに。
半分は私、もう半分は信用を裏切ったひとの血。そう思うと喜んでたのが馬鹿みたいだと思えてしまって気持ちが冷める。彼がさっきの女性だとか見えない場所に居るだろう他の女性に夢中なのだとしたら、私はこの身籠ったという事を喜んで良いことなのか。
……悟はさっき、私が近くに居るって事を分かってる。アイマスクをしていたとしても目が良いんだから……。
「ああ、バレちゃった」くらいには思ってるんだろうな…。
バレた事を分かってて、もしもまた夜に関係を迫られる事があれば、端的に『ああ、そうですか』とこちらから願い下げる。どんなに愛したとしても依存するほどに一緒にいてもその私以外の大切な存在を作られたら終わりなんだと。
……触れられたくない。自分の意志で他の女と関係を持つだなんて…!
人混みに溶けるように、私も足並みを揃えるように歩きだす。この人達、どこに向かってるのだろう?独り言というか、携帯の相手に怒鳴り散らす男性を横目に、急いでる人が人の合間を縫って追い越していく。
私は別に、急ぎでも目的地も無いから……ただ、歩いてるだけ。今日、この後どうしようね?寮なら野薔薇の部屋に泊めてもらおうか、実家に帰るか……。
妊娠が発覚して早々に悟の浮気も発覚した。
子供については罪がないから、私が育てるのかな。私との間に欲しかったのって春日だからって理由だったのかもね……。だとしたら余計に消費されてしまうだろう、子供の人生を預けられないなって悟から離れる事を私は選ぶよ。
そして呪術の世界から抜け出せるのだとしたら、もう金輪際彼と鉢合わせしたくないから"見えないフリ"でもして非術師の世界に溶け込みたい。そうやって静かに、平穏に生きていきたい。私の母のように……。