第29章 赤い糸で繋がっているもの
人通りの少ない通り。そこのとある建物から堂々と五条が出てきていた。側には見知らぬ男向けに着飾った女、その女を五条は支え女も五条に腕を絡ませるようにしがみついていて共に並んで歩き、何か会話をしながらにこっち側へとやって来る。
まだ私達までの距離があるから今ならバレずに離れただろうけれど、すぐに動かせない私達の足。
……その建物ってのが超、問題なんだよ。
ラブホテルだ、多分さっきまで楽しんで出てきたって所か?本人が知らぬ間に妻を孕ませておきながら、それを知らずに他の女に手を出してたって事だ。もしかしたら、ハルカが男にレイプされてからハルカへのその気が薄れてきてるのかもしれない。
どちらにしろ、最低な行為だ。
このふたり仲良くラブホから出てきた様子に名前を付けるとしたら多くの人間が"浮気"と呼ぶだろ……なにやってんだ、アイツ?仕事といって、ハルカに留守番させてこうやって女遊びをしてたのか?
ハルカから聞いていた、最近忙しそうだとか、帰りが遅いだとか、出張が多くなったという話も聞いていたから余計に黒だった。きっと今日だけじゃなくて昔みたいにあちこちに女を忍ばせてる……。
言い逃れの出来ない目撃をした私達。この微妙な空気の中でいち早く動きを見せたのはハルカだった。
『……っ、』
息を呑みながらダッ、と駆けて行く足音。思わず私は「ハルカっ!」とその走り去るその背へと声を上げてしまった。
あ、やっちゃったか?思わず抑える口元。黙って見てたけれどきっとその六眼で見えてるだろう、アイマスク姿の五条へと視線を向けると案の定こちらを向いてのんきに片手を上げていた。こいつは堂々と女遊びをする男だって知ってる。それを身を固めてからもするとはね……、心底見損なった!
汚らわしい、と女と絡むように歩いてくる男を睨みつける。ハルカもこんな五条を見たのは初めてだろうに。逃げたくなる気持ちも分かる、分かるけれどひとりは心配。五条にひとこと言ってから追いかけなくちゃ。
腕を組み、そのタッパのある男を見上げて睨みつけた。