第4章 乱心、暴走
30.
「おう、お帰り~、ハルカ!」
『ただいまっ、父ちゃん!』
久しぶりの自宅。数日前に父親に連絡し休みかどうかを確認した。本当は今日、出勤日だった所を他の人とシフトを替えたそうだ。
いつもであればだらだらと過ごすであろう休日。毎度休みの度に昼間からお酒飲んだりしてるのに、飲まずに家の前をうろうろしていた。
玄関のドアを開け、私に先に入るようにと気遣われながら久しぶりの自宅に帰った。2年くらい前は母を想って、それ以降は呪いが見えず体調を崩しがちだった私の事を考えて家の中ではタバコを吸わなくなった父親。玄関用の芳香剤の匂いでああ、自宅に帰ったんだな、と実感した。
「元気にしてたか?」
『ん、そこそこー』
冷たいペットボトルのお茶をグラスに入れて、食卓に向かい合って座る。
父親はとても嬉しそうだ。休みでありながら頭を固めてお気に入りのグラサンをしている。
そんな父は玄関の方向を首を僅かに伸ばしてきょろきょろと伺ってる。
「彼氏連れてくるのを待ってたんだが、今日は連れてこないんだな?」
ぎくり。
口元で苦笑いなどで現れないように、下を向いて平常心を心がける。……よし、と顔を上げた。
『なーに?私が彼氏を家に連れて来て欲しかった?』
「いや、意外とよ、しっかりしてたからよぉ……ほら、悟君うちの床も業者に頼んでしっかり改装してくれたしなぁ。ゆっくりと話してみたかったんだけどよ…」
ああ、そういえば床下に呪物が埋まっていたんだった。
それを悟が床ごと破壊して、回収して……って。あの隕石でも落ちたような穴はここから確認するもそんな事があったなんて信じられない程に直され、それどころか便利そうな床下収納付きのフローリングになっている。
とてもあの大きな穴が空いていたとは思えない、その床をしゃがんで触れた。アフターケアがしっかりされてる……!
ぷちリフォームされたキッチンに感動していれば低級の呪いが冷蔵庫の隣の壁からずるり、と顔を出す。
私は居るだけで呼び寄せてしまうから、呪物が床下から無くなっても出てくる。それは仕方ない事、低級は壁をすり抜けるらしいし。
その小さな子どもくらいの大きさの呪いを掴むと、ジュウ、と音を立てて炎が吹き出していった。
それはきっと父には見えてないんだろう、私の側で屈んだ。