第29章 赤い糸で繋がっているもの
硝子とそんなやりとりしていると都内の産婦人科の前へと停車したタクシー。
ここは誘った手前私が奢ります、とタクシー代を支払い、少しばかり周囲の目が気になる中で硝子と共に恐る恐る院内へと入っていく。以前にブライダルチェックとして来た事はあったけれど、今回来たのはそれとは違う検査が目的で…。
……犬とか猫が病院に怯えてバイブレーションばりに震えるのって良く見るけれど。
それに違わず、私もブルブルと小さく震え続けた。いっそのことただ生理が遅れてるって結果であって欲しいんだけど。うん……生理が遅れてるだけ、遅れてるだけ……!
問診票で記入できるだけ記入し、覚えてる所だけ書いて。やがて「五条ハルカさん」と私の名前が呼ばれ、硝子と視線を合わせる。
「ほら、呼ばれた、行く」
『……あの、』
「とにかく、今日の目的は果たさないと。逃げたって結果は同じなんだからこの際、白黒はっきりさせよう、な?高専の設備は怪我の治療や死亡時の遺体の解剖に適していても、こういう所のような設備は無い。機械も器具も無い…私だけじゃハルカが知りたい事を判断出来やしないんだから、今日その不安を調べて貰おう」
『……はい、』
尻込み仕掛けた所で背をぽん、と優しく叩き、ゆっくり擦る硝子。彼女が居るだけでも今は心強いんだ、結果を知る為に調べてもらわなきゃ。「五条ハルカさーん」と大きな声でまた呼ばれてしまいながら、それにはいと返事をして、付き添いの硝子と共にのろのろと診察室へと入って行った。
──生理不順……いや、むしろ病気だとかでありますように。それなら自分で治すことも出来るかも。
無闇矢鱈に自己治療してるわけじゃないから…。願いながら、優しげなふっくらとした男性の先生にあれこれと調べられ、先生は眼鏡を掛け直しながら頷いてはっきりと言い切った。
「ウン、多分だけどコレ、妊娠してますね!」
『………は…、』
最初に思った事は嘘だ、という言葉。
……最悪、と先生の結果を聞き、聞いてしまった結果の話。体の震えなども一気に消え去る。凍ったみたいに動きを止めて。
硝子はすかさず私の背を擦った。衣擦れの音がわしわしと大きく聞こえ、その手が温かく感じる。無性に泣きたかった。
硝子は言葉を無くした私の代わりに先生に突っ込んでいく。