第29章 赤い糸で繋がっているもの
……昨夜は不安で不安で仕方なくて一杯熱燗を飲んでる。寒いからって言いつつ。最悪、一時でも忘れて無かったことに出来たらなって。おかげでぽかぽかした体、悩み事は吐き出さずただただ悟に泣きついてぎゅっとしてもらった。彼はやけに今日は酒癖が悪いと笑いながらもえっちはせず、優しく寝かしつけてくれて、その理由も聞かずに優しくしてくれた悟にも罪悪感があった。この大きな問題を言えないって気持ちが重い。
この二日間溜め込んだ重苦しい気持ちを隠すのは辛かった。こうして吐き出せるのは少しだけ楽。横に座る硝子はなんとも言えない表情で視線を泳がせ、言葉を探してるようだった。
「あー…、五条はもしも、があったとしてもその子を堕ろせなんて言わないと思うし、ハルカを嫌ったりはしないと私は思うけど…」
『それは、どういう……、』
ふっ、と自信ありげに微笑む硝子は腕を組み、タクシー内で脚も組んだ。
「嫌いなやつ、死んだやつとの子とは言え、半分はハルカの血だ。あんなにハルカにべったりしてる男がハルカの血が流れているその子を殺せ、なんて言うと思う?」
推測だけどさあ、と付け足す硝子。
……確かに、硝子と話してみて私の心の中のいつもの悟は冷たい事は言わず「子供に罪は無いんだから」とか「それでも僕は産んで欲しい」と優しい事を言いそうで。不安が少しばかり薄まってきた。
『思わないです……』
「だろ?あちこち引っ掛けて遊び回ってた、あの女ったらしだったクズがたったひとりの女に熱中してんだ。過去のあいつの人柄を知る私から見たらキッショイくらいにさ?
今日だってハルカがなんだか悩んでるみたいだから相談に乗ってあげて、とか言ってたんだ。どんなに隠してもあいつには大事な嫁がお見通しってワケ。
口を開けばハルカハルカと煩い男が事故だとはいえ、腹に別の男の子供を宿したからって冷たい事は言わないさ。むしろ自分の血が流れていなくても、アイツなりに血の繋がる本当の父親として振る舞うんじゃない?」
『……』