第29章 赤い糸で繋がっているもの
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硝子に電話をして二日後、今か今かと待っていた約束の日がやってきた。
悟は朝の早い時間に出掛けてる。任務だし、私も出掛けると伝えてるから早々と帰ってくるとは思えないし。
寒いからか、今日知るだろう結果にビビってるからかカタカタと小刻みに震える体。寒いから震えてるって事にしたくて、充分に暖かい格好をしてひとり部屋を出て寮の部屋の鍵を締めた。
忙しい時期だからこそ高専の車が出払ってる。いや、一台だけ残ってたけれどこれは任務とか急に入った時の為に私達が使ったら駄目だ。流石にプライベートの移動手段に高専の車は遠慮はするよ……。
早く硝子に逢いたくて進む足は自然と速くなっていく。
「……よっ、顔色悪そうだね~、ハルカ」
吐息がまるで煙草の煙に見えた、それくらいに冷えた外気。ぺこ、と頭を下げて硝子と合流した私は高専の車を使うのは遠慮したいと伝え、携帯で呼んだタクシーに乗り街へと向かう事になった。
高専前までやってきたそのタクシー内。少し重苦しい空気が流れてる。
暖気が車内を満たしてもやっぱり小刻みに体が震えた。膝の上の両手の拳。上着の生地をぎゅう、と掴んでいた。
「……まだ、分からないでしょ。変に自分を追い込むなよ?」
『いや、だって……。もしも、だったら…悟も私を嫌いになるんじゃあ…』
──金髪のか、黒髪のか。どっちかのだ…きっと。いっつも不幸に追い回されてる私だから、どっちかの子供を宿してたらと考えると絶望的。悟にバレたら嫌われる。彼は赤ちゃんが欲しい、とは言っていたけれどそれは悟と私の間に出来る子の事できっと、自分の血の繋がらない子を求めていないと言うんじゃないのかなって……。
嫌われる前に、蔑んだ瞳で「要らない」と言われるその前に、こういうのって薬とか打つなり、飲んだりしてどうにか出来ないのか、とまで考えてる。一週間近く前の事だし、中身を掻き出すほどじゃないとは思うけれど……もしも、道具とか使って、だったらある程度成長してからとかも調べた。結果を知って、居なくなる命と過ごすというのも罪悪感がある。それも罪なき新しい命なのだし。
とにかく。秘密をひとりで抱えるとなると悪い方向にしか考えられなくて、たった二日でもかなり辛かった。授業中とか誰かと話してる時なら別のことに集中出来たけれど、集中する事の無い時……特に、ひとりの時間が苦痛で。