第29章 赤い糸で繋がっているもの
"……その様子だと、ハルカはまだ五条には言って無いんだね?"
『……はい。明後日悟は任務入ってるし、硝子さんと買い物と行ってきちんと調べて貰えたら、と…』
押しつぶされそうな気持ちの中で携帯の向こう側の硝子に縋る。
まだ結果を受け入れる覚悟をしてないんだ、病院でどんな結果を言い渡されるのか。怖くて仕方がない、生理が遅れてたり悟の血を継いでいない可能性が高いのではって不安ばかり。
回数や直接である膣内射精をしている、もっとも妊娠しやすいであろう悟との間に出来たという事よりも、攫われ、犯され、形だけのような完全ではない避妊であった、一度の不運の不安定な要素の方が今の私の頭の多くを占めていた。
"………"
間を空けた硝子。そのたった数秒が私にはとても長く感じて。通話を切られた?切らないで、と固唾を呑んで彼女の言葉を静かに待つ。
沈黙を破った硝子。彼女はうん、と頷くように私に言う。
"了解、分かった。この件は内密にしようか。あいつ、普段は駄目駄目でもこういう秘密事には妙に察してくるからとりあえず今は忘れろ。何が何でも楽しい事だけ考えて悟られないように。思い出すのは明後日。
……最悪の場合だったとしても今日明日で決着する問題じゃないんだし、結果によっては色々対処できる。だから変に自分を追い詰めるな"
『はい……ありがとうございます』
彼女の言葉を聞きながらにぽろぽろと涙が溢れていく。泣いている事が硝子に伝わってるかもしれない。けれどもこの不安はどうしても拭えない。
変に目を赤くしてるのを怪しまれたくない。だから、鍋とはミスマッチな玉ねぎのサラダを急遽作って、ご飯が炊けて蒸し終わった頃に、見計らったように帰ってきた悟。
玉ねぎで泣くとかダサすぎでしょ、なんてちょっとだけからかわれてきっと、隠せたんだと思う……。
多分、上手く笑えてなかった。ぎこちない笑みを浮かべていただろうけれど、私なりに不安を心の奥に閉じ込めて悟との時間を過ごし、硝子との約束の日を待った。