第29章 赤い糸で繋がっているもの
彼はまだ任務中で帰ってこない、ていうか忙しくてここんところ帰りが遅かったり、また出張で外泊する事が多かった。
朝の内から外泊と分かればその日の部屋から出る前にコアラ度全開で私の体にがっちりとしがみつき「やだーーーっ!離れたくないーーっ!」……と大声で叫びつつ摩擦で火が着くんじゃね?というくらいに頬擦りをしていく。あんたはマッチ棒か?
29歳、絶賛任務イヤイヤ期。
けれどもここまで好きになってくれるのは嬉しくて呆れながらもそんな悟を撫でて優しく、しつこすぎるなら厳しめに彼を送り出して。
今日も悟は「帰りが遅くなると思う、寂しくしちゃってごめんね?」とぎゅっと私を抱きしめてから名残惜しそうに出掛けていった。
今日も悟は帰りが遅くなるんだなー…と、とろ火で鍋を加熱しつつ、炊飯器でお米を炊いてる最中に乾いた洗濯物を畳み終えて。お風呂場を掃除し、トイレ掃除をしていた時だった。
『(トイレの床は終わった、あとは……、あれ、そういえば…)』
しゃがんだ時にふと目にしたもの。
……最近、汚物入れに触れてないな、と気が付いた。いつもならゴミが溜まったり、生理が終わった頃に捨ててたんだどそれをいつもの感覚だとしばらくしてないようなって。それではっとした。
察したというか瞬間的に悟との間にデキたのでは?と考えたけれど私のいつものアンラッキーならばそうはいかないでしょ。
──まさか、あの時の……?
掃除の手が止まったままに視線は空っぽの汚物入れだけに注いでる。なんで生理が遅いだとかそういうのに気が付かないんだっけ、いつもなら携帯に通知が来てる…って警戒してたんだけど。
掃除用の手袋を外して携帯を取り出して。生理を管理してるアプリを探せども一覧にない。私自身は消してないから、もしかしたら悟が避妊させないと決めた時点で私の携帯から消したのかも。
それなら生理予測の通知も来ないはずだわ……。
──少し前、だったな。二人がかりのレイプをされたのは。
血の気が引く感覚。時が止まってしまったかの様にトイレで硬直した。