第28章 想定外
……ああ、うん。やるしかない。やるしかないんだよ、どんなに嫌だって思っても。
許せない、だからといって殺したいってわけじゃない。ヒサカイがこの後生きられるのか死ぬのかはその道のプロが判断してくれる。今から私や悟がするもんじゃない。
明らかに怯えるヒサカイの前でしゃがむ悟。靴を悟は脱がし、部屋の端に投げ散らかすと今度は靴下を剥ぎ取って、準備が出来た悟は立ち上がってヒサカイの背後へと回り込む。
私を向く彼が楽しげな顔して手招きをした。
「ハルカー、こっち来てー」
呼ばれて悟の隣に行くと、彼は躊躇いなく片手に拘束されたヒサカイの手……その手を手首ごとしっかり掴み、悟がさっきから玩具のように扱ってた片手の器具を使った。
ニッパーの先で挟み、切らないように器用に爪を捲る悟の手首のスナップ。目を背けたい光景でメリィ、という肉から剥がれる音と滲む血液に私は顔をしかめた。
「ああっああああぁぁ!」
痛みに悶え叫ぶヒサカイ。あまりにも痛そうで、内臓が浮くような感覚を覚えるほどに。
僅かに目を背けながらジタバタを暴れるヒサカイの二の腕を薄汚れたスーツ越しに触れると、血の滲んでた親指に爪が生える。
……うぇっ…、これを十回、その後足も……指なんてもっと痛いのでは。何度も肝がひゅんっ…と浮くような思いをしながらも、私はその悟が傷付けていく行為の後に治していく。
恨みもあったせいか、若干のサイコパス性があるのか……悟は割と楽しそうにプラモデルのパーツを外していく感覚で爪を毟ったり、指をバキ、と気軽に切り落としてたんだけど。
「ヒィ……っ、ヒィ……っ」
「──はいっ!学習タイムはこれで終わりです!」
全ての工程が終わった……!と思えばさっさとこの場から立ち去りたい気持ちになる。なんていうか、心の休息が欲しい。
私が怪我をしたわけじゃないのに、憎むべき相手であるのに痛めつける様子が生々しくて慣れなくて。げっそりしてる私の肩を悟がぽんっ!と叩いた。嫌な予感しかしない。ゆっくりと彼の顔を見上げる。
ご機嫌な笑みを浮かべた悟はサムズアップをしていた。