第28章 想定外
「はあー…手は後ろぉ?これ、やりにくくない?せめて前方でさ、机に指十本並べてお膳立てしとけよ」
ギッギッギッ、という軋む音が私の隣から聞こえて、その音の出処に視線をやれば悟はやたらと厳ついニッパーを握っていた。
それが何を意味するのかは分かる。ヒサカイも悟がニッパーを握ってるのを見て理解したみたいで小刻みに震えながら、奥歯をガチガチ言わせて体を少しばかり縮こませている。
今から拷問をするっていうのに悟は顔をこちらに向けてにっこりととても機嫌が良さそうに笑っていた。
「じゃあ、後ろに拘束された手から一枚ずつ爪を毟っていくからハルカはそれを治して覚えていって!手の次は足。爪への拷問が終わったら指を切り落としていく」
「……ヒッ」
「あ、ハルカも毟ったり切断するの、したい?」
これはアレだ、無邪気に虫を殺す子供のような雰囲気。
悟からの誘いに私は首を横にブンブンと振る。いくらなんでもしたくない。確かにヒサカイは高専を裏切って、私を売ったから憎いといえば憎いけれど私の手で痛めつけたいほどじゃない。
そもそもヒサカイじゃなくても今からされる事を聞いただけでぞわっ、と痛みを想像してしまう。痛めつける誘いを拒否した後に思わず自身を抱きしめながら、悟を見上げたままに。
『……どうしても、拷問をやらなきゃ駄目…?』
ギッギッギッ、とおもちゃで遊ぶように悟は器具を握りしめてる。彼はいつものわがままを言う時みたいに口を少し尖らせていた。
「やらなきゃ駄目。言葉でどうにも出来ないでしょー、こういう組織を裏切ったヤツは。どうしようもないクズだからせめて利用できるものはする。クズでもなんとかすれば削ぎ落とせてカスにまで出来るでしょ?それと同じ。
それともキミは高専の、いや呪術師の命を脅かし、非術師の世界に呪具を横流しして、キミすらも危険に晒したこの男の罪を赦します、なーんて聖人じみた事を思ってたりする?」
『……意地悪だなあ、そういう性格面が良くないと思うよ?』
軽く睨むと満足げに悟は笑った。それが私の返事だって彼は理解したみたいで。