第28章 想定外
「あのね?あれは必要な犠牲でしょ。なんなら何?特級呪術師が無抵抗に死ねっての?それとも貴重な医療呪術師を見殺しにしろって言いたいわけ?」
「……そうとは…、」
「そうだろ?最低限の犠牲で済んだってワケ。最前線で僕らは命張ってんだ、上層部の狙いで貴重な貴重な特級呪術師っていう戦力減らしたらこの界隈、やっていける?
ねえ、どう思います?傑の奥様~」
若干ふざけつつ急に後部座席の傑に振る悟。
流石の傑も悟をこら、とか真剣になろうとか注意すると思ってたんだけど流石悟の親友様だ。疲れてるのもあるかもしれない。
「私達がヤクザの巣穴で蜂の巣になって喜んじゃうのかしらね、悟の奥様~」
「や~ね~?」
「「ね~?」」
はあー…とんだガチムチの奥様方だよ、全く……。
それ以上の追求はせず、運転する男は再び黙って高専へと向かってる。
車はそのまま私と拘束した裏切り者のヒサカイと……ガチムチの奥様方を乗せて高専へ。
停車してすぐに運転手と似た雰囲気の人達が三名駆け寄り、スライドドアから傑が押し出した所をボディチェックをし、私の携帯が出てきたのを渡され(ヒサカイに取り上げられてたんだ…)、ヒサカイ自身の携帯も没収されながらも彼は数人に連行され、どこかへと消えていった。
……この後は私とか悟とか…ヒサカイやカワグチ組についての報告でもするんだろうな、と考えると疲れがどっと押し寄せる。もう、速攻部屋に帰ってシャワーでも浴びたいんだけれど。
『はー…焼き芋を買いに行こうとしたらとんだ目に遭った…』
がっくりと肩も下がる中で乗せられた手は優しく。
「……ホント。僕が言えたもんじゃないけど。危険な目に遭う前に戻れたら、記憶を消してあげられたらって思うよ」
『ん…、でも出来ないから。出来るだけ忘れるようにする…』
車から降りた私達は車庫内で、寒い中ただ黙って突っ立っていた。
傑は直接悟とのやり取りとか、脱衣所を見ていなくてもあの会場に入って私がどういう格好をしていたか知ってるし、会話の流れできっと察してる。変に慰める事はせずにただ、黙っていてくれた。
悟は事が起きる前に戻りたいって言っても今じゃ元には戻れない。記憶も私から他の人の記憶を消せても、私自身の記憶は消せやしない。一度起きてしまったからにはあの事を受け入れないといけなかった。受け入れた状態で私はそれを忘れないといけない。