第28章 想定外
スライドドアを開けてすぐの位置に座る私と悟。最後部には傑とヒサカイ。ヒサカイ以外は今は怪我をしていない。悟はそもそも怪我なんてしないんだけど、傑はあの混沌とした人間に囲まれてた。悟のように無限があるわけでもない。だから重傷でなくとも怪我はしていて、合流後手を伸ばし、傑に触れて治療をした。だから彼の服はボロボロでも怪我は無い状態で。
怪我はなくとも皆疲れていた。乗り込んでそれぞれがふう、とため息をついていて。きっと今夜は熟睡コースに違いない。
傑は呆れたような声で笑う。
「はは…っ、でもカワグチ組なんて非術師の中でも知能のより低下した猿の寄せ集めだろう?その割に道具を使うのが厄介で、でもそう簡単には殺せなくて……いやあ、気を遣ったね~…手加減は難しいものだよ」
隣の悟が腕を回す。私の体を寄せるようにぎゅっと悟側へと傾けられる体。
「ハルカ~、あんな事言ってますよー?あーコワイコワイ!」
「良く人の事を言えたものだね~?都内に渓谷を作ろうとしてた悟に言われたくないんだけどなー?」
『け、渓谷ぅ……?』
……あの虚式っていうのはそれほどの威力を持つものなのか…、止められなかったらあのバー近辺は抉れてたって事。最悪の事態にはならなくて良かった、という安心感。
…このやや殺気立つ車内に言葉を挟めない。悟は顔をこちらに向けながら後ろの席の傑へと視線が向いてる。
「えー?僕のモンに手出しした害獣を完膚なきまでに処分しただけだけど~?」
「だったら私も騒ぎ立てる猿の群れを躾してやっただけに過ぎないね?」
「あー!もいだ首でトーテムポールでも作っておけば良かった!」
「ははっ、それは汚いトーテムポールになるだろうよ」
「じゃ、千と千尋のオイオイ言ってる緑頭に訂正ーっ!」
ふたりしてははははっ!と声を上げて笑う。思わずそのイカれた雰囲気に苦笑いが出た。
悟と傑…仲良いんだか悪いんだか良くわかんねえやり取りだな……あと、悟。頭をわしわし撫でんのやめろ、と視線を投げかけ呆れてたら、運転席よりお叱りの声が。ルームミラーから睨みつけるような眼光は鋭い。
「非術師が数名死亡してます。手間のかからないようにとの指示があったはずですが……?」
特級コンビのふたりは動きをピタッと止めて真顔になって傑へと振り返る悟。黙って見つめ合った後にはあー…と大きなため息を吐いて。