第28章 想定外
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傑と合流した後、営業前の照明の落ちた店舗側、大きなガラスで出来たドアを先頭を行く傑が蹴破り、バリン、という破壊音が辺りに響き渡った。背後からは数名の「待てやゴラ!」という巻き舌交じりのやかましい追っ手。
「ははっ!……しつこい猿は嫌われるよ?」
傑が虫に良く似た呪霊を追っ手に放ち足止めをしながらに逃げる。暫くはゴミの散らばる細い路地裏を中心に走っていたけれど、諦めたか、傑の呪霊のおかげか。追っ手の気配は無く……。
そこでようやく私達は呼吸を整えるように足を止めた。
「私が迎えを呼んでおくから、悟はヒサカイとハルカを」
「ん、任せたよ」
持ち上げていたヒサカイをそのままに、彼は空いた手で私を引き寄せて。悟の視線の先、傑が携帯で車の手配をしているのを一緒になってじっと眺め、その場で警戒しながらにただ静かに待って…。
きっと悟や傑を連れてきた車が近場に待機してたんだ。電話を入れて五分程で路地裏から見える位置に幅寄せされる黒塗りの車。
ああ、補助監督生が運転してる、一瞬追っ手かと思ったけれどそこで少し安心したら力が抜けて。
『…ぅ、』
ふら、と身体が一瞬ふらつき、それをぎゅっと支えるように悟が私を抱きとめた。
「ハルカっ!?」
心配そうな彼の表情。少しでも安心させようって私は支えてくれた彼ににっ!と笑いかけた。
『大丈夫、安心したらちょっと力抜けた』
「それなら良いけど……完全に安心しないでよ?」
『…うん』
幅寄せして私達が乗り込むのを待つ高専の車。ワゴンタイプで普段と違った雰囲気の人が運転をしていた。何度か運転をして貰った事があったけれど、今回の事もありこの人は大丈夫かな、と若干の不信感を持ちながらも、背を押す悟に急かされて私も乗り込んで。
ヒサカイを抱えた悟と傑が乗り込んで車はようやく発車した。
……私自身も迷惑を掛けたけれど。高専としてはヒサカイの件が重要だった。情報や呪具を流していたというのだから当たり前か。
最後部座席でヒサカイを隣に座らせてる傑が呼び出した蛇のような呪霊を使って更に逃げられないようにしっかりと見張らせてる。
振り返ってそんな傑を見たら疲れた表情でありながら、ふっ、と笑っていた。
「ヤクザの領地にカチコミとかするもんじゃないね……」
「その割に傑、ノリノリでボコってたろ?僕にはそう見えたな~」