第28章 想定外
「……殺すのなら、一思いに殺してください……」
「…あ゙?」
寒さか恐怖か、持ち上げられた位置からでも分かるほどにガタガタと震えてるヒサカイ。
悟はチッ、と舌打ちをして淡々とヒサカイへと話しかける。
「オマエ…何してくれちゃってんの?うちの嫁が野郎共にこれからの人生を切り売りされようとしてたんだけど?しかもオマエのせいで野郎共に喰われてんだよ。
……以前から内密にしてた情報も漏れてたしオマエが情報を売ってたんだろ?立場を利用して。
それだけじゃない、非術師に呪具や呪符を高専倉庫内から横流ししてたろ?京都だけが怪しまれないように各地にさ?保管されてたものが消えて、その呪物がまた回収される事態、その原因がまさか補助監督生だったとかさあ…」
何も言えないヒサカイに悟ははあ、と深く息を吐き出し、とても低い声色で「簡単に死ねると思うなよ」と付け足すと、私をゆっくりとその倉庫内の床に降ろす。
冷たい視線をヒサカイに送っていた悟。私に顔を向けた瞬間からは優しいいつもの表情をしていた。
「足、ちょっと冷たいけど我慢して。コイツを運ばないとね、丁度持ち運びに便利な取っ手(拘束中のロープ)も付いてるし」
ヒサカイは観念したのか抵抗もせず逃げ出さない様子。私以上に入念に脚も縛られてるから、逃げようとしたら芋虫のように這うか、転がるかしか移動手段がないからかもしれないけれど。
歩ける今だったら、と私はドアが半分開いたこの部屋の向こうの構造を思い出してさっき移動してきた通路を指差した。
『悟、こんな状況だけど、ひとつ我儘言っても良い?』
「……うーん、時と場合によるし私情だったら内容次第で却下するけど一応聞いとく……なに?」
私はただ結婚指輪を取り返したくて……。また後で買えば良いとか言われそうな気もするけれど、無理を承知して浴室に寄ってもらえないかを悟に相談したかった。
脱衣場に行けばあるはず。外に捨てられたわけじゃないから希望はある。今は悟の上着を羽織ってるけれど、着ていた服も一部は残ってるはず…。靴もあれば良いけど。