第28章 想定外
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助けに来てくれた悟が上着を脱ぎ「寒そうだからこれ着てな、」とその体温の残った黒い上着を肩から羽織らせられて。シャツ姿の悟にひょい、と私は横抱きにされて舞台裏方の方へと走り出した。
後方…、騒がしい客席からは私達に向かって傑が叫んでる、「早くここを出るよ!加減も面倒くさくなってきた」……って。その言葉に首を傾げながら悟を見た。
『……加減?』
何のことだろ?と悟を見上げて聞く。
裏方から両ドアタイプの重いドアをバガンと蹴り開けた悟は、私の顔を覗き込んでにっこりと笑い質問に応えてくれた。
「ん?あいつなりに非術師を殺さないように力加減をしてんの。べっつにこいつら全員殺したって良いのにね~?」
『……駄目だよ、これ以上は…』
「なに、大丈夫だって!"人間は"殺してないんだからさー?」
決して悟は殺したのは人であったとは認める事はなく。そのまま私から顔を上げた彼。
近くで足音がして、ぐるんと回転した私達の体。ギャ、という短い声とその人物が倒れたような音。別のドアから出てきたのか、追っ手は悟の回し蹴りを受けて床に伏せてる。
……生きてるのか死んでるのかは分からないけど。
「チンタラしてらんないね、で、ヒサカイが居るの、どっちよ?」
『ん…、あっち』
ドアを出てすぐ、悟に右を指差し私が目覚めた倉庫の方向を指せば、悟は走り出してその方向へと向かってる。しっかりと私の背や腕と、太もも裏から支えられているから落ちる心配は無いけれど。
それでも悟のシャツにぎゅっとシワが付くくらいにしがみついていた。
『私を売ることを優先的に扱われてたから……殺されてなければ拘束されたままだと思う』
「ははっ…!とんだVIP対応だよね……、ここ?」
そこにいると言わずとも分かったらしい…六眼で捉えたのかも。
両手で私を抱えながらだから私が片手をそのドアノブへと手をのばす。悟の服でぶかぶかで手で、というよりも袖越しで開けたドアの中。その狭い部屋に入れば変わらず拘束されたまま、顔をこちらに向け目を見開くヒサカイが見上げていた。
私と悟が揃ってる状態でのこの倉庫への登場に、いくら高専に所属していたって彼はもう裏切り者。カワグチ組に始末される事を回避したとしても私達の登場はヒサカイにとっては救出に来たという事ではない。
彼は怯えきった表情で見上げていた。私よりも上を向いた視線。