第28章 想定外
『ヒサカイはこのバーの裏方、物置かどっかに拘束されてるよ……
って違う、私が悟に謝りたいのは…っ!』
騒がしい中で悟は静かに聞いてくれている。その中でひとり拳を握りしめて懺悔した。
『指輪を取られて…しまいには、ふたりの男に、私…私。れ、いぷ……されて、』
「……は?」
──ごめん。大事にしろと言われたものを何一つ、私は大事に出来なかった。
ギリ、という歯ぎしりが聞こえて驚いて顔を上げた。怒ってるんだ…凄く感情的になった表情の彼。真顔の悟が私を見下ろしていた。
「それ、マジかよ……?どいつにヤられた?ハルカの身体を弄んだクズはどれ?」
『あの、私の髪を掴んでた金髪と、そいつを慕ってる…黒髪で細いアイツ』
自由になった体。自身の体をやっと私の意志で抱き隠しつつ指差す方向の黒髪の痩せた男を指せば、悟は立ち上がりゆらりとその方向へ歩む。
その瞬間に巻き上がる風とピリつく呪力。
「……──術式順転"蒼"、術式反転"赫"…」
「悟っ!止めるんだっ!」
悟が何かをしようとしていたら会場の方から傑の声がして、ざわつくその中心に顔を向ければ傑が居た。
呪霊操術を使っていて向かってくるヤクザの人らを次々と伸してる。銃や刀を使って立ち向かおうとするも非術師、呪力の無いものが太刀打ちできなくてきっと見えない何かに阻まれてるというか。「刀が動かねえ!」と悲鳴に似た怒号が聴こえた。銃声がするも呪霊のおかげか傑には届いてなくて。
傑が悟を止めろと言ってもそれでも彼は止まらない。
傑があんなにも必死に叫んでるという事は、悟が今からする事はいけない事だと、相当ヤバイ事なんだって理解して、私から数歩離れていく悟の元へと素足で走り悟の背中へとしがみつく。
「虚式……、」
『悟!駄目、落ち着いて』
会場から叫ばれる傑の声。「ハルカ!なんとかして悟にその術式は使わせるな!」と言われて、可能なだけ悟に抱きつき妨害して。進む足が止められたから止めてくれたんだと思ったけれど。
ふふ、という呆れたような小さな笑い声。
「………ハルカ。でも、僕はさ…?ハルカの事を女の子であるっつーのに手加減ナシにボコボコにして、人生をめちゃくちゃにしようとして………俺だけが知ってるオマエン中を、無理矢理に知ったヤツが許せねえ……、俺はコイツらが許せねえんだよっ!」