第28章 想定外
一度私を抱きしめていた彼は離れ、私の両肩に手を置く。温かい手が優しく感じた。その優しさになんだか申し訳なくなって、私は彼を見上げる事が出来なくて顔を俯かせた。悟の顔を見て今よりも安心したかったけれど汚された上に卑猥な装いをしている今の私を見て欲しくなくて。
……今の私、頬が腫れてるし。額もまだじんじんする。殴られた時に歯も数本か折られてるし、服装ってか派手な飾りを纏った、素っ裸みたいなとんでもない姿になってる。女として全てが大切な人に見られるに恥ずかしい。
しかも大切な結婚指輪も紛失した。
……そしてなによりも私の身体は悟以外の男を知ってしまったという事。体に侵入をされてしまった、という最悪な事。この事実は一生消えることは無い…。
頭上で「あはは…」と悟が苦笑いをしていた。
「呪符と拘束具でとんでもない目に遭わされててんねー……ははっ!ホント、僕が居ないと駄目だなあ、ハルカは……ほんと」
『……』
会場が騒がしい。多分悟以外にも誰か来てる。ヤクザ達の野太い悲鳴とグラスなり机なりが派手に破壊される音…、持ち込まれただろう、呪霊と思われる大きなひとつ目のなにかの雄叫び。
私が何も言わないからか悟が不思議がっていた。
「オマエ専属の騎士様の登場に嬉しくて何も言えない?それともえっちな姿で恥ずかしい?」
『悟、ごめん……』
「なぁに、捕まった事くらい大丈夫だよ。責めてるわけでもない。今、オマエをこういう目に遭わせる原因を作ったヒサカイを僕らは探してるから……、」
悟はそう言いながら私の背後のロープを切り、呪符を剥がす。破かれた後にグシャ、と目の間で術式により潰されて捨てられるゴミ。床にコロコロと転がっていく。
どくん、と熱い血液が巡るような、呪力を自身の中、全身で感じる。ようやく拘束から開放された…!
……悟、私をカワグチ組に売ったあいつを探してるんだ…。でも探したって多分外には居ないはず。だってここの私が目を覚ました場所に居たんだし。
呪術が使えるようになった事で全身に負ったものを治していく。痛みは取れ無くなった歯も生え、すぐにでも逃げ出せるくらいに回復を済ませて。
体が正常になっても悟の顔を直接は見れずにいた。傷は治っても犯された感覚は消えることはなく、頭に記憶として残ってる。母を降ろしての呪術が私には効かない……記憶は消せないんだ。