第28章 想定外
267.ゴア表記有
あちこちの席でざわざわとテーブル毎になにやら話し合いが行われてる。話し合いながらに時々確かめるように視線が飛んでくる。どこを、なにを見られてるのかだなんて。透けて服とはいえない細い糸で編まれた飾り。その隙間だらけで見える裸を隠すに隠せず、身動いでも客席で口笛を吹きながら悦ばれる始末。
顔を上げた瞬間にニタ…と薄ら笑う、ムーディな薄明かりを反射するつるっとした頭部のジジイと目が合った。すぐに私は顔を伏せて、自身の髪でカーテンにするようにして顔を隠して…。
……気持ち悪い。見たくない、顔を上げてたまるか。頭を下げていればマイクを通して「商品ナンバー3、顔を上げろ」とスピーカーから不機嫌な指図を貰う。誰がそんな指示に従うかっての。
あちこち痛くてそれがストレスになって、こんな姿で私、何やってんだろって恥ずかしさもあって。だんだんと恐怖よりも怒りが上回ってきた。
そんな私の元に駆けつけてくるひとり分の靴の音。希望をもって舞台脇を見れば期待をした悟ではなく、不機嫌な表情のあの金髪。あ…、と全身の筋肉が縮こまるような感覚、小刻みに震えた。
駆けつけながらに肩に、革靴を履いたその片足が勢いよく飛んでくる。
ドシャ、と叩きつけられるように倒れた身体。床は土やコンクリートではなく、ステージという事で木材だとしても。マトモな服を纏ってない体と一切の手加減の無い蹴りは材質なんて関係なく。
「オイ!若頭が顔上げろっつってんだろうがッ!」
『…っ、つゥ!あ…、』
男に髪を掴まれて強制的に顔を上げさせられた。下げることなんて出来ない。目の前に無理矢理に見せられた私の視界には面白がって指を指してるヤクザの仲間達。
そのままにただの進行役の男だと思ってた、"若頭"の方に顔を向けられた。
やや不機嫌そうではあるけれど、客席の反応をチラチラと見て僅かに笑みは浮かべてる。揺すられる頭、金髪のガタイの良いヤクザはその若頭の方に向かって大声で叫ぶように謝った。
「すいません!調教不足っした!」
マイクに向かって若頭がぼそりと話しかける。その声はスピーカーから「躾しとけ」という、さっきまでのテンションと打って変わる低い声。慌てた金髪は私の髪を手繰り寄せて更に掴む力を込めていた。ギチ、と髪から嫌な音が聴こえる……。
「すいません、今すぐ従順になるように痛めつけときます!」