第28章 想定外
終わってしまった事は巻き戻せない。私はもう、悟だけを知る女では無くなった。だからって、全てを諦めきれない。諦めてこの流れのままに商品として売られてしまったら、売られた先で彼以外の子供を私は孕まされる日々が待ってる。
……そんな事されたら、死んだほうがマシだよ…。
「着いたぞ、テメエ専用の陳列棚だ」
立ち止まる男達と共に釣られて止まった私の足。
観音開きの重そうなドアの先、ほぼ素肌みたいな格好の私の背を思い切りドン、と押し、拘束や全身の痛みもあってバランスを崩した私は床に転がった。
倒れた私の脇腹と尻に遅れてなにかがぽか、と当たって床にごと…、と音を立てるもの。
上半身を起こしてそれらを見ると真っ赤なピンヒールが乱雑してる。少し離れた位置、ドア前でオオウチ達がケタケタ笑ってた。
「そいつ履いてここで待ってろ」
「そこはバーの裏、ストリッパーの舞台だ。そこの幕が上がったらお前の競りが始まる。精一杯腰でもくねらせてイイ金額で買って貰えよ?ハルカちゃん?」
ギィィ…ばたん。
ドアが締まりドアの向こうでガハハハハ、と笑う声が遠ざかっていく。転んだままに少しひんやりとした床で座り込んだ。暖房は効いてるけど服らしい服を着てないから少し寒い。
……とんでもない服を無理に着せられたものだよ、と見える範囲から自分の姿を見下しひとり嘲笑った。さっきの乱暴に押された時に引っかかったのか、赤いネグリジェが少し引き裂かれ、ブラとして機能してない、乳首が見える下着や、パンツでありながら下半身のよく見えるもの。裏社会の酷さを知った。
口の中に唾液を溜め、プッ、とその辺に吐き捨てた。吐いた時のものとか、血液だとか…あの男達の精液で気持ち悪かった。唾液で吐き飛ばしたから少しだけ楽になれたけれど正直水で濯ぎたい。
……今だけはひとり。なんとか、頭を働かせなきゃ。さっきの事は忘れよう、身体に刻まれてしまった記憶を少しでも紛らわすために周囲を確認して。
『……幕…、』
視界の多くを閉めるヒダ。遮光カーテンみたいな、宴会場だとか学校の体育館にある幕。その向こう側からざわざわと人の気配を感じる。私の居る位置はそのストリッパーのステージのど真ん中。割と狭めな舞台…らしい。