第28章 想定外
……チッ、まーた、タクシーが赤信号で停まった。これ、走ってった方が良かったのかな…。
苛立ちが隠せないままに歌姫の追加報告を聞き続ける。
"あとね、ヒサカイが高専で働きだしてから外部に情報が漏れてる現象が起こってんのよ。すぐにっていうわけじゃないけど…、交流会以降に東京の学生の情報が漏れたりとか、呪術師の送迎後、呪物の情報が流出したり。ハルカが入って来てリベルタに救助に行ってから、とか…。大体関わってるわね"
なるほどね、うん…これはもう確定だろ。
その情報を聞き、はあー…と僕は大きなため息を吐かずにはいられなかった。
「……ヒサカイっていう補助監督生。真っ黒じゃね?」
"私もそう思う。流石にこの件はハルカだけの話じゃないから上にすぐに報告せざる負えないって。私からはあんたにこうして連絡してるけど、こっちの教師が学長へと報告がされる、そしたらまもなく追跡チームが派遣されると思うけど…"
呪術師を育て、統括する呪術高専。
その大きな呪術界のシステムの内状を外部に、ましてや非術師に漏らすとなると組織全体でそのウイルスをなんとかして処分しないといけない。
……そんなの、時間掛かるだろ。
ここは最強がふたりだけ居れば良い。集まるの待って突撃とかしてる間にハルカが変な薬をぶち込まれたらたまったモンじゃない。
「あー…うん、追跡チームとか必要ないかなー…今から僕と傑でカワグチ組にカチコミに行くし。
そもそも金に困ってた男が金を受け取った後、その男をヤクザが簡単に逃がすワケがないでしょうしね~?」
ヒサカイがいくらでカワグチ組にハルカを売ったのかは分からない。例えば二億で売ったとして。後ろ姿を見せた瞬間に短気なヤクザ達が商品を手にしながらも"大金を取り戻す"方針に切り替えるかもだし。
……もしかしたらもう殺されてるかもね、彼。
通話を切ってアイマスク越しから窓の外を眺める。赤信号は青信号へ、どんどん目的地に進んでいる。
とにかく、ハルカが殺される目的で攫われたわけじゃないだろうけど、助けに行かなくちゃ。こういうのは僕の役目だ。彼女を早く安心させてあげたい。会いたい、会って抱きしめて安心させてあげたい。
冬の午後四時は既に薄暗く、曇天からはぼさぼさとした雪が落ちてきていた。