第28章 想定外
──それで映像は終わり。
ハルカも男も車もなく、日常がただ映っているだけの映像が流れ出してる。
僕と一緒に、黙って確認していた管理人のオジサンはまさか自分の管理するマンションで事件が起きただなんて思いもしなかったみたいで青ざめた顔して動揺していた。
「(この人目隠しして見えてるのかな…)……警察に通報しましょう」
「いや、待って。多分知り合いかも、だから僕自身で奥さんを連れ戻すよ。管理人さんは僕たち以外のここの住人に迷惑も掛けたくないでしょ?」
事件となれば警察、来るだろうしね。
色々調べたりさ?そしたらオジサンの管理するマンションの評判も悪くなる。警察の出入りでご近所さんに嫌でも見られるだろうしね。
不安でやや挙動不審な管理人に僕は「一応、証拠として映像が欲しいな、攫っていった男が言い逃れしないように」と付け足すと頷いてデータを移す作業に取り掛かる。
それらの逃れられない証拠が詰まった、防犯カメラの映像達をマンションの管理人に許可を得てUSBにコピーしてもらってる間に、それを見守りながら僕は数人……歌姫、傑、憂太、恵、硝子。
その5名にスマホでモニターに写し出された補助監督生の写真を送る。"こいつについて詳しく知ってるやつ居たら教えて"って。その質問に対しての答えなんてすぐに返ってきたよ。
歌姫と七海と憂太が京都の補助監督生のヒサカイとはっきりと返した。恵は知らなくても仕方ない。硝子もどっかで見た、多分京都と言っていた。これで確実に名前はヒサカイという補助監督生だという事が判明した。すぐに冥冥に連絡をしようと僕は耳にスマホを当てる。やっぱりこういう時は冥さんが一番でしょ。
……早く、彼女を取り戻さないと。
焦る気持ちを押さえ、コール音の間に呼吸を整えて。
"おや?五条悟からの電話だ。金回りの良い仕事の依頼かな?"
開口一発目で仕事の話だって解られてる。まあ、僕も雑談する為にこうして連絡してるワケじゃないけれど。
管理人のUSBへの映像を移す作業はあと少し。コピー中のバーが左から右へと動く様子を見て、手元のメモしたナンバーに視線を落とす。
「んー、そうなんだよね、またもハルカが攫われちゃってさ」