第4章 乱心、暴走
口元は薄く笑っている、けれどアイマスクの奥では見えないのに何故だか、優しい目をしている様な気がして。そんな悟はそっと私の肩に手を伸ばそうとして、引っ込めた。
珍しいなぁ。いつも触れてくるのに。そう思う私に昨日関係を解消したという事を思い出して、そうか、私達は終わったから…いや、そもそも始まってすら居なかったからなんだ、と胸に針が刺さる感覚を覚えた。
私にボディタッチをせず、行き場を失った手はそのままパチン、と指を鳴らす方向にいった。さっきまでの表情はどこへ、いつものやんちゃな口元だ。
「よし、次やる時は武器持ってくるからそれを呪具化させての練習かな!今日はここまでにしよう!」
その声で開放されたので、私はご飯食べたら買い物して着替えたら事務だな、と今からの行動を想像する。食料を追加したい、乳液とあとお米もそろそろ追加せねば。
それから今日のお昼は外で、うどんかそばにしよう。二日酔いが元に戻りつつある体にはそれくらいが良い。もうあんなにがぶがぶ飲まない。お酒なんて飲まない、24時間限定だけれど。家に芋焼酎あるのは論外として!多分今夜はアルコールは摂取しないのは確定している。
買い物やらお昼についての想像から、酒についての後悔へと変わっていく私が悟を見れば、悟は片手を上げてニコニコと笑っている。
「はい、お疲れサマンサ!お昼どこ行く?」
『……はい??』
あれ、私昨日悟を振ったよな…?と思ったけれど、表面上の恋人を辞めるって事だったか。金輪際近付くなってわけじゃないもんね。すべてが降り出しに戻ったってことで。
びっくりしてしまってンン、と一度咳き込んでしまった。
恋人設定で行こうって言う前もそんなに距離感が変わんなかったか。フレンドリーというか…キスとか、そういうの……無いくらいで。
何を考えているのか読み取れない、ニコニコとした顔が覗くので心が見透かされないように私は平然を装った。装えているか知らないけれど。
……その無下限呪術に、感情を読む能力がありませんように。