第28章 想定外
なんだなんだ、また芋の副作用についての文句かぁ?
携帯画面を見れば、"帰ったらいつも通り連絡!あと僕の分も買ってきて。それでスイートポテト作ろっか!"との事。ちゃっかりスイーツをリクエストまでしてるし……まあ、良いけどさ!
ちょっとの距離でも寒空の下に出るのだから暖かい格好をした。いくら風邪を治せるといっても風邪を引きたくないしね……。
鍵を閉め、エレベーターに乗り込んで四階から下がっていく数字を見上げる。寒い日ほどに売れ行きが良くなるからねー……焼き芋、まだ完売していませんように…!
ふふ…、ご近所で買い物が出来るって幸せ、かも。ひとりで行けるし!
少し軽い足取りでマンションの正面口から出てすぐの時だった。自動ドアが開き、室内に冷たい空気が流れてくる。ど真ん中にひとりの人間が立ってる。
吹き込む冷風で顔に掛かった髪を指先で払い、目の前の人物をまじまじと見た。
そこには見覚えのあるスーツ姿と強面の顔。
年始は忙しいのかもしれない、補助監督生って。しかしまあ…顔が顔だけに裏社会の人間って感じだなあ…スーツを着てると余計にそんなイメージを持たせる(呪術師周りもある意味裏社会だけどさー…)
『お疲れ様です、ええと……京都の、』
コートのポケットから手を出して目の前の人物を指差す。確か、京都の補助監督生。なんて名前だっけかな~、ひ、ひ…、なんて言ったっけか。忘年会にも居たんだけれど。一緒に居た補助監督生の女性の方はオオゴウチっていうのは思い出せるんだけどなあ。
私が少しだけ苦笑いした後に男も同じく笑って頭を少し下げる。
「……ヒサカイです」
『……そう!ヒサカイさん!で、ヒサカイさんは京都からこっちに応援要請で?』
京都での最初の治療時、腕の骨が折れていてスカーフを通りすがりの人に渡されたとか。名前は忘れてたけれどこの人の印象は記憶に残ってた。
そのヒサカイはにこ、と笑い頷く。なるほど、笑えばなんだかマダムキラーだわ。
「監督生も術師もこの業界は少ないですからね。万年人手不足ですからこちらで大きめの問題が発生したらその間、京都側から通常の呪いに関する調査で出張することもあるんですよ」
補助監督生はその地区だけでも多忙なのに、違う地区にもこうやって派遣される、という事情を聞きうんうん、と私はヒサカイに対して相槌を打った。