第27章 五条という家
にっこにこの父に手渡すとそれでも喜んでたんだけど、奇妙なほどにニコニコとした父はそのまま「さっ、上がった上がった!」とリビング方面へと戻っていく。
目の前から隣の彼に視線を移してちょっと感心した。
『私の父ちゃんにも無限解いてたんだー…』
「ん?解いてないよ?無限を叩いただけ。僕が無限を完全に解くのはオマエだけだよ?」
ふっ、と微笑む彼に『そういう所だぞ……』と小さく呟きながら玄関にと上がる。
ふたりして手を洗ってからリビングへ向かえば、何故父があんなに機嫌が良いのかが分かった。
「お邪魔してます、今年も宜しくね、ハルカちゃん!」
『あけましておめでとうございます、ねえさん……って、』
思わず声を小さくせざる負えなかった。ねえさんの大事そうに抱えるその腕の中には小さな子が眠ってる。まだこの世に生まれて間もない命、その子を兄と父がとろけたアイスクリームみたいに目尻や鼻の下、口元をだらしなくしてデレデレになった顔で覗き込んでる。
ねえさんの腕の中の子に夢中なのは強面の父と兄。なんか…赤ちゃん言葉で小声でよちよち~だとか言ってる。どっかの組に居そうなツラしたふたりもこうもデレデレになるんだなあ…。
兄夫婦が住んでる場所は実家から遠く、またねえさんが妊娠してたのは知ってた。私と悟が実家に紹介・挨拶しに帰った時は兄だけ来て、妊娠中のねえさんはねえさんの実家で過ごしてて。私が昏睡状態の時にそのお腹に入ってた子が生まれ、私が悟と喧嘩した時に父からその画像を見せて貰った。生まれたての真っ赤な子供…、まさに赤ちゃんとはこの事を指すんだと納得しつつ。
その画像の子と対面するのはこれが初めてとなる。そして、悟もねえさんに会うのは初めて。
ねえさんは私から視線を上げ、笑顔だった口をぱかんと開け目をまんまるにして驚いていた。
「この人がハルカちゃんの、旦那さん……?」
「どーも、初めまして!一条二条三条四条僕、五条悟です!」
『漫才しに来たんじゃねえぞ?』