第27章 五条という家
ぎゅっと握り直した手。風に晒された悟の掌はさっきよりも少し冷えていて私の体温と混じり合い、ゆっくりと同じ体温になっていく……この触れた温度に安心する。
鳥居の端をくぐり進んでいくと、混んでいる中でも幾つか行列が目立つ。社務所に並ぶ人は離れる際に本のようなものを抱えてるか、皆同じ黄色い楕円の何かを持ってる。番号が書かれているから、順番待ち…?ああ、そっか!新年という特別な一年の始まりの日、限定の御朱印を貰ってる列だ!
それからその近くの授与所に並ぶ人は破魔矢やら熊手、と縁起の良い物を買っていく人達。皆、嬉しそうに笑いながら、白い息を吐いて家族だとかパートナー達とわいわい話をしながら行列から去っていく。
私達が今から並ぶのは序盤の参道沿いのこれらの列ではなく、階段の先の目的地、拝殿前……ってか、階段にも行列のある最後尾。
彼がその行列を見たらしくはは…、とちょっと苦笑いをした。
「わーお、ヨソウガイデース。想像以上に混んでんじゃん、こっちの神社ツイッターでバズりでもしたのかなあ?」
『バズったかは知らないけどすっごい混んでるね……、みんな強く気持ちを込めてお願いをするからか、呪いもうようよしてるね…』
楽しい!とかそういう気分じゃなく新年早々鬱々しい感情でも湧いたんでしょ。なんかやたらと猫背で物悲しげな表情の呪いが居た。
神社に湧いた、というよりも並ぶ人の肩に居たものがするりと降りてる。連れてきた、というのが正しいのかも。なんにせよ、人間だけじゃなくて呪いもわんさか居る、悟の実家近くの神社。
呪いの一体と目が合った、というか感覚的に寄せられるように呪いがじりじりと遅めの速度でこっちに向かってきてる。呪いから視線を反らし悟を見上げるとサングラス越しの青い瞳が私を見て笑っていた。
「僕だけのハルカに呪いが来てもねえ。マーキング済なのに卑しいね~」
『……マーキング済?』
ん?と首を傾げ指輪の事かな?と自身の指を見ると、頭上の悟が喉の奥で笑いながら「違うよ~?」と否定する。丁度拝殿へと続く行列の最後尾に辿り着いて私達は立ち止まった。