第27章 五条という家
出掛ける為にその部屋を立ち去る際、「五条家に入る者として恥ずかしくない行動を」と、そして「少々手の掛かる息子でありますが、悟を宜しく」と頼まれてしまった。
『こちらこそ、宜しくお願い致します』
「……そこの道楽息子の悟が婚約を破棄して自由に選んだのが貴女のようなまともな方で良かった」
ふわっと笑ったお義母さんの優しい笑みに隣の不機嫌顔の悟。「なんでぇ?」と、福笑いでもしたかのような表情の歪み。下唇が出てる。『……おや、実感がおありでない?』と覗き込んだら瞬時に満面の笑みへと早変わりしていた。言葉がなくても分かる、今夜ヤバイ事になる。抱き潰される……!
口の中をキュッと噛み締め、そんなすけべな事を考えてるだろう彼から視線を反らすしか私には出来なかった(ご両親の前だし……)
──そして悟とふたり、近場の神社へと出掛ける今に至るってワケ。
薄氷などで滑らないように気を付けながら、歩道を並んで進む。彼としっかりと手を繋いで。
和装に着替えた悟は呪術師としての上下黒の時や、デートの時のお洒落で格好良い服、スーツやドレスコードの時の決まった服装とはまた違う印象。ちゃらんぽらんでも教師でも旦那さんからもかけ離れた、五条家の当主としてふさわしい印象を私に残した。
互いに和装とは言え、羽織りを掛けても寒いものは寒い。首元は特に曝け出してるものだから、互いにマフラーを巻いてきている。特にうなじの辺りが冷たい風が触れてぶるぶると震える程だったからカシミヤのマフラーが柔らかくもあったかくて心地ち良い。
神社も近付けば今が一番人が集まる時期。並んで歩いていた悟が口を開く。
「うん。流石にお正月、非常に混んでますねえ~……僕のモーゼで五条悟式ファストパス状態にしても良いかな?」
にこにこしながら一瞬手を離した悟が、ガイルのソニックブームのような動きをする。この人、無下限呪術で人払いしようとしてんな…?冗談で言ってるんだろうけど、首を横に振っておく。
『テッテーランドじゃねえんだぞ~?ファストパスはござません!』
「ちぇ~…待ってる間寒いんだけど」
『そこは皆同じっしょ。我慢しなよ、私だって寒いんだから……』