第27章 五条という家
「ん?何?ハルカが着替え終わった?」
室内からの声を聞き「失礼します、」と声を掛けたマツは障子を開けて私に向かってにこりと笑う。障子の開けられた室内を覗き込むと、なかなか見ることの無い座椅子に座ってデスクワークをしてる悟と目が合った。もわ…、と暖気がこちらに流れてくる。机にはサングラスが置かれ、私があげたマフラーを畳んで乗せられていて、ハンガーラックに着ていたコートを掛けて。いつもの服装でデスクワーク中だった彼。裸眼で文字を追ってたらしく、さっきまで手も同時に動かしてたであろうペンが持たれたままに動きが止まってる。
悟と視線が合ったその瞬間。カタン、と彼の手から音を立て机に転がるペン。悟はすっ…と片手で目元を押さえた。
「やだぁ……僕の奥さん着物姿もイイ……似合ってるよぉ~、高画質撮影で等身大タペストリー作ろうかなあ…んもぉ、お正月イベントスチルゲットじゃーん……」
「……だそうです、奥様」
悟の残念な発言ににこにことしてるマツ。マツがすっ…と手を、中へと誘ってるからそろそろと足音静かに室内に入った所で。
「ぐすっ……しかし和装ねえ~…、今晩は帯回しから盛り上がっちゃいそう!でも着衣でのプレイもこれまた盛り上がるかなあ~?着崩してしていい?」
『オイ!』
背後で「失礼しました、」という声と同時に閉まる障子。人前で何言っとんねん。
離れていく足音を聞きつつ、顔に熱が集まる。
『悟っ!いくらなんでもっ…、人前でなんて事言ってんのっ!』
口を尖らせつつ、落としたペンを持った彼は書類にペン先を着けた。ちら、と私を見てさらさらと書類に何か書いてる。
「恥ずかしがらなくて良いだろー?夫婦なんだから子作りはするじゃん。流石に今日は激しい事したら家中にオマエの声を晒しちゃうから、ねっとりとしたえっちをしようって思ってるんだけど。
そういう周囲に匂わす"スパイス"も良いじゃんね?」