第27章 五条という家
「この際です、私達で揉めたって意味がありません。ここはご本人に決めて頂きましょう!」
こういう揉めてる時にありがちなヤツゥ……!
ここで『なんでも良いです』だとか適当な事ぬかせば真顔でなにいってんのこいつ?って見られるやつだよね、とゆっくりと顔を上げて。部屋にあちこち出された着物、帯、彼女たちの抱えたそれぞれのおすすめ。それらを見回してから私は右腕をそっと挙げた。
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──着付けが無事に終わって、帯をたんっ!と軽く叩かれる。
「はい、終わりましたよ!」
「お似合いですねぇ、悟様もきっと喜ばれると思います」
私が選んだのはウメさんが選んだ青よりも少し淡い色。縹色(はなだいろ)というらしい。そこに扇がいくつか刺繍されているものだった。
選ぶ前は揉めつつあった三人もいざ、着付けが始まると協力して黙々と進めていた。たまに姉さん、と呼んでたから姉妹、なのかな…多分。顔つきも似てるし、気が合いながらも喧嘩したりしてそれっぽい。
『ありがとうございます』
着物なんて久しぶりに着た。胴周りが重く感じる。着物だけじゃなく帯や小物も色に合わせながら選ばれて、またしっかりと着込んでいるから暖かい……けれども首周りや足元は少しスースーと寒いかな?
着物を纏うと身が引き締まるような感じがして、自然と背筋もピンと伸びた。
三人のひとり、タケが髪を着物に合うようにと纏めてくれている時に「あ!」と声を出した。なんだなんだ、何事か?と少し振り向く私と駆け寄るふたり。
『何かあったんです?』
「いや、なんでもナイです…」
今の声は何もなくなくない……?視線も泳いでるし。
背後に回る三人。ウメが「あ、」とタケと同じく声を漏らし黙り込む。そして一度咳払いをしたマツが一言。
「……悟様の場所に案内致します、ふたりともこの部屋の片付けを頼みますね」
「「はぁい」」
何か言いたそうな顔でふたりを見ていたマツ。残されたふたりは少しニヤついてるのが気になる中、「こちらです」と言って進む彼女の後ろから付いていきながら、縁側を歩き自然と私は庭を見ていた。
ぱらぱらと降る雪が庭を少しずつ白く染めてる。その光景に足を思わず止めてしまってた。キシ、と軋ませる音にハッとなってマツの後を『すいません』と謝って再び追って。
とある障子の前に立ち止まるとマツは障子に向かって「悟様、」と声を掛けた。