第27章 五条という家
奥様呼びはなんだかむず痒いなあ…。
お願いします、と私はその女性に着いていく。目の前にふたり、私の後ろに荷物を持つ女性が着いてきている。
玄関から入り、幾つかの部屋を進んだ先の部屋。
大きなタンスやら木で出来た収納のある部屋で、どんどん色鮮やかな着物の生地が取り出されていく。
それぞれが素人目でも生地が高そうに見えます……。ていうか、そもそも着物自体も高いじゃん!
これには流石にひえぇ…っ、と借りてきた猫状態にもなる。適当に青いヤツで、とか言ったら怒られそうな雰囲気もあるから、文句も言えそうにないし謙虚にもなりきれない。さんにんとも皆真剣に生地を見比べ、雰囲気に居た堪れなくなった私がコノハミミズクの如く私は細木、私は枝、私はここにいませんよー…と気配を消そうに消しきれず、なにも出来ない私が突っ立ってる場所にひとりひとりが着物を持って駆け寄っては生地を体に当て、去っていく。
『あの、私もなにか探したりした方が…』
「いえ、そのままで結構。立ったままで待機されて下さい」
『アッハイサッセン』
立った私に布を当て、去り、また持ってきて。それが繰り返され、半トルソー的扱いを受けつつ……。
各々が部屋の中を着物で彩りながらも"これ!"というものを見つけ出したらしく、ひとりひとりが趣味の違う着物を持って押しかける。
さんにんは仲が良さそうな一面を見せてはすぐに口喧嘩を繰り返しながら私の前でまーた揉めてるんですが…。
「……やはり、こっちが良いでしょう」
「いえ、こちらの方が合いますね、」
「雰囲気はウメの選んだもので良しとしましょう、ですがこちらの方が映えます、確実に…絶対に」
揉め始めて数分。長くなるんだろうな、もう座って良いかな。ゆっくりとその場に膝を着いて畳の上に座った。
正座する私の前、並ぶ三人がそれぞれに緑や青や赤紫といった派手めの着物を持ってバチバチと睨み合ってる。新年っすよ?そう揉めなくても良くない?
互いに見合っていた視線は打ち合わせでもしたかのように一斉にこちらにと向く。私ひとりにむっつの視線が突き刺さる。
──嫌な予感がする…!
視線を目の前に並ぶ三人から自身の膝、てか畳に移した。