第26章 だから師走というんです
「さん」
『にぃ』
「いち!」
ただのなにも変化の無い、時間が経過しただけ。
その瞬間に時計は”12月31日23:59”から"1月1日0:00"に変わった。
『「ハッピーニューイヤー!」』
ぱんっ!と耳に煩いクラッカーを引けば細いリボンが飛び出して、細かい物がひらひらと、そしてキラキラと舞う。僅かに煙が部屋の空気中に残り、火薬の匂いも充満して私は『クサッ』と手で扇いだ。
本当ならば年末年始くらい、一泊か二泊かして過ごすか、実家に帰りたかった所だったけど、忘年会で私のその考えを彼に話したからか、次の日になってアルコールの抜けた私は悟にしがみつかれ「やだ~~っ!新年のカウントダウンするんだい!」と駄々をこねられてしまって。何をするにも悟が離れない。がっちりと私の身体にしがみつく彼はまるでぴたっと張り付くぬいぐるみ…ぴたぬいの如く部屋の中をどこでも一緒していた。
ご飯を作るにも、洗濯をしようにも、掃除をしようにも。時々片手だけ補助をしてくれるのはありがたいけれど重い。
離れろや、という意味を込めての舌打ち。ふわっふわの髪を揺らしぐりぐり顔を擦り付ける、その日何度目かの「実家帰んないで!」を聞くにこいつぁ~実家で過ごせないなっ!と私は悟る。そして彼と過ごすことにしたんだけど。
悟ももちろん大好きだし大切だけれど、やっぱり肉親も大事なもの。せめて日帰りでも良いから挨拶はしたい。それで新年を迎えてから実家に寄る、という事にした。
こうしてふたりで無事、新年の0時0分を迎えられ、にこにことして夜にも関わらず睡魔なんて知ら無さそうな悟がはしゃぐ。リモコンを手にぷつん、と電源を消して。手ぶらになった両手でパンパン!と手を叩いて。
「じゃ!年も越したことだし早速だけど姫始めしよっか!」
『えっ、早速過ぎない?もうちょっと夜ふかしとかさあ…深夜番組とか……』
夜ふかしって言ってもそんなに夜ふかしは出来ない。明日は悟にとっては実家に、私にとっては初めての五条家…悟の家族に対面するのだし。
"姫始め"をしようとしている悟に見えないはずの尻尾が見えた気がする。ぶんぶんと振って楽しげな犬の尻尾が。これは寝られないテンションとみた。