第26章 だから師走というんです
隣の悟はへらへらして、頬杖しながらこっちをずっと見てる。こういう場だもん、悟も楽しそうだ、と私も表情筋が緩む緩む。
『うーん…しかし足りないッ!日本酒もうないのかな~、酒ッ!飲まずにはいられないッ!』
「あれ、キミブランドーさんちの方でしたっけ?
まー…とんでもない酒飲みしてるね……ハルカ…」
へらへらと悟(シラフ)も私もしていれば、悟の横の傑がひょっこりと顔を出してる。悟の肩越しに顔を出したもんだから、悟は傑のその横顔に顔を向けていた。
「割と塩で飲む人も居るもんだよ。悟、これ以上ハルカにお酒を与えちゃ駄目だよ、歌姫第二号になる」
「そいつは大変だねぇ」
ぽやぽやとした頭でそういや歌姫が静かになってるな、と席に視線を向けた。御膳を退かし、その空いたスペースに突っ伏してる歌姫が見える。以前、一発芸って何が出来る?って話をした時に細かすぎて伝わらない野球ネタを披露してくれたけれど、どうやら新しいジャンルでのモノマネが出来たみたいだね……あは、面白い事してるー!
『私も歌姫さんみたいに亀のマネしとこー!』
「亀のマネじゃないわよお……」
両手で御膳を押し、空いたスペースへと突っ伏すとゴッ、といい音がした。じんじんするけどそんなもん痛みを無くせば良いって事。
『THE☆亀のマネ!』
「なんで僕の周りに亀が二匹も発生してんの、てか完成度ひっくいわ~」
呆れた声色のツッコミと、賑やかな室内でも聴こえた伏せて見えない視界外での衣擦れの音。パキ、と関節の鳴る音。
急に私の腋に両手が突っ込まれる。そのままひょい、と持ち上がる体。誰だ、私の亀ライフを邪魔するやつは。亀ラップで撃退すんぞ、もしくは旅館のペナントでチターニ!するかんね?
『……なに?どなた?私の忍者亀ライフを阻害する輩は』
「ミュータント・タートルズがそんな完成度低い事しないだろ……」
持ち上げてたのは悟。猫を持ち上げたみたいに私は座席から持ち上げられ、悟はのしのしと通路方向へと進んでる。「お疲れー…ライス!」とか冗談混じりの挨拶しながら。
え、もう帰んの?確かにぼちぼち帰り始めてる人も居るけどさ?