第26章 だから師走というんです
顔を背ける悟に呆れるようなため息が周囲から聴こえ、そして冷めた視線に蜂の巣状態な悟。
「それみろ」だとか「いい加減学習しろ」とか笑われてるけれど。あの時は無事だったけれども、こういう気軽に実家に帰る事すらももう勝手に出来ないのでは、と思えてきた。お酒でいい気分になっていたのにな、いくら飲んで嫌なことを忘れようとも現実からは逃れる事は出来ない。
……いや、私もあの時は運がまだ良かったんだ。車で移動したとは言え、家の前に悟じゃなくて知らない誰かに見張られたりしたら……。リベルタに捕まった時だって。大丈夫って過信があった、閉館中の博物館だからって…。
私の隣を見れば「好きな子にちょっかい出すのは小学生までしか許されないよ?」とか「逃げられる手前」だとか多方面から言われて下唇を噛み、あからさまに悔しげな顔を作ってる悟。
今の悟に手を差し伸べたら面倒くさい事になりそう。ほうっておいて落ち着いたら構ってあげよう。そう思ってた私の考えは、こちらに顔を向けてきた時点で崩壊した。その猫背に何か含んだ暗黒微笑?にやあ…って表情、やめろ~?
「……ハルカ~…首輪とハーネス、付けたいならどっちが良い?選ばせてあげるゥ…」
『その前に。ジャーマンスープレックスとキン肉バスターどっちが良い?選ばせてやるよ』
調子に乗っていた隣からクーン…という悲しそうな声がする。どっちが犬だこれ。
「痛いのはヤだな~…冗談だよ冗談!マイケル・ジョーダン!」
「冗談抜きで定期的に悟をシメておかないとこうやって調子にのるから気をつけるんだよ?」
「傑ゥ!」『了!』
猥談もここらで終わり、皆が食事も半分ほど食べる頃になると席を移動したりして交流が始まる。自然と飲兵衛には飲兵衛が集まるみたいでそうなればテンションも上がり、ペースも上がり、未成年達の席にあった酒も掻き集まり……。
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『酒が足りねえんだけど~……』
「いや、キミねー……充分飲んだでしょ…」
瓶の日本酒が空になり、追加で貰って更に徳利のも回って来たのを貰って。
ちぇー、今おちょこに入ってるので最後じゃん!と箸先を口に入れ、天ぷらの調味料として出された塩を着けて口に入れる。そして残ったおちょこの酒を流し込んだ。うーん、飲んだ!