第26章 だから師走というんです
ぽかんとしてしまった私から力が抜ける。その隙を横からガッシリと腕が回され、ぎゅっと悟に引き寄せられてる。
『ブェッ』
「もー、駄目だよ冥さん。うちの子は売らない、非売品なんだし」
「フフ…、私はバイヤーではないさ。ただね、ハルカについては春日の一族が居る……という話が回ってきた時から価値の上がり方が異常でね?」
自身で日本酒を注ぐ冥冥。私の方にずい、と向けられて慌てて片手でグラスを向ける。もう片手は悟側に飲み込まれてる、離れようとすればするほどに離さない状態だとみた。なんだ、タコか?吸盤付いててもおかしくないくらいに今日は一段とウザ絡みしてくるなあ……。
極力今は刺激しないで、これ以上酷くなるようなら最終手段…ちょっとヴァイオレンスにいかせてもらおうって考えてるんだけど。
トクトクトク…、と音を立て注がれたお酒。頭を下げ引っ込めるグラス。冥冥は畳の上にまだお酒の入った瓶を置いた。
……価値の上がり方、という冥冥の言い方に疑問を覚える。
それは祖母の存在が消えてから、という事かな。でも、祖母は老婆の域であり、子供が作れるってわけじゃないからそんな驚くほどじゃないんじゃあ…。
『祖母が、死んで事実上私のみだからです?生き残り的な……、』
「それもあるね。たったひとりだけというプレミア価格。でもそれだけじゃない……キミは何度か死にかけては復帰を繰り返し、ついこの前には確実に死んでから生き返ってるだろう?」
こくり、と頷く。悟の引き寄せる力が少しばかり強まった。冥冥は怪しく微笑む。うっとりとしてるような笑み。
「何度も死にかけては復帰してる。死んでも生き返った……それは死にやすいという犠牲の一族出身としては大変タフである証拠なのさ。……そいつは貴重だよ、血眼になって探すやつだって現れる程にね?」
「……運が良かっただけだよ、冥さん。死んで生き返ったのは条件がたまたま良かったんだ」
少し低めの声の悟の声。そこに間髪入れず冥冥は続けた。