第26章 だから師走というんです
徐々に賑やかになっていく宴会場、定刻を前にした私の気持ちが凪の状態。そのままで隣の悟に向く。
『来たか……』
「急になに」
『忘年会が始まるとどうなると思う?』
「……一応聞いておくけどどうなんの?」
アイマスクをした状態の悟が不思議そうに私に聞き返してくる。ちらほら見える生徒達は私服だけれど悟はいつもの服装。ってのも彼は任務があったからってのもあるのかも。
その黒尽くめの彼をじっと見たままに。
『知らんのか?忘年会が始まると……忘年会が始まる』
「あれ、キミもう酔ってる?それともコブラ?進次郎なの?」
『まだ酔ってないよ、シラフシラフ。キリンはジラフ』
「始まる前から出来上がってんじゃーん、雰囲気酔いかよ」
出来上がってるワケじゃないけれど、ちょっとばかり舞い上がってますよねー!
お刺身だとか和食が中心。わー、天ぷらがめっちゃ美味しそう!天つゆと塩両方あるからお好みって事か、ふむ…このラインナップなら日本酒だな。どういうのがあるんだろ?酒の頼れる相棒は豊作だなあ…!
『やった、いいぞ、これぇ~、塩だけでもイケるんだなコレが!』
「……もー、あんまり酷い酔い方だったら取り上げるからね?」
少し呆れ気味に、けれども愉快げにため息をつく悟。今日はやけに大人しいなあ、こういう時ははしゃぎにはしゃぐもんだと思ってたのに。
静かな悟が「あっ」と一言。そして通路の方に手を振りながら叫ぶ。
「あ、歌姫!酔っぱらい専用座敷はこっちだよー!酔っぱらい、カッコ仮!席はこっち!へべれけ隔離施設だよ~!」
「チッ…あ゙ー!うるっせえ!そして敬語使えや!」
おっと、これはいけない。楽しい宴会となるはずの序章から揉め事は。
煽る悟の肩にタァン!と手を乗っける。出入り口方面から私に振り向いた悟。
『人の嫌がることは止めましょう。飲ませて寝かしつけるぞ?』
「……やめて?僕下戸だかんね?」
『なら、人の嫌がる事は?』
「する!」
キラキラとする自信たっぷりの表情。これはいけません、オイタがすぎるようですねぇ…?
『おっ?外の池でバックドロップからのスケキヨコースかな?』
「寒いから嫌でーす」
『なら、やんな~?』