第26章 だから師走というんです
ぎゅっと引き寄せる手が少し弱まり、私の背を撫でる。あ、起きたんだと顔を上げようとしたら言葉にせずともそのままで、というように、背を撫でる手が頭を胸に少し押し付けるように撫でつけられる。
「……そんなに僕がドキドキしてるの、聴きたいの?」
押し付ける力は減り、ただ撫でる手がぽかぽかとあたたかい。もぞ、と顔を上げれば覗き込むように私側を見てる彼。「ハルカさんのえっち!」とやけに気だるそうなしずかちゃんが現れた。
いいじゃん、聞きたいんだもん。そんなに心音聴くのが変態か?と思いつつ。
『お詫びに私の胸の音でも聴く?』
ほれ、とちょっと着崩れてるローブの胸元を広げると悟はじっと覗き込んでる。てっきり喜んで、うんっ!って良い返事でもするかと思ったんだけれど予想外にも微妙な表情をし、ぷるぷると首を振る悟。
「散々聴いたし。いいや!」
『えっ、散々聴いたっていつよ?私寝てる時いつも聴いてんの?』
私みたいな事をしてたのか~、と共感なのかなって思ったのだけれど、実際は違うようで苦笑いをされる。悟の撫でる手は一度に撫でる幅を広げ、そしてゆっくりと味わうようにその間もローブ沿いに撫でていた。
「オマエが死んだ時。何度も何度も希望を持ってね。
生き返った時、嬉しくて何度も何度も確認して。ずっと目を覚まさない間、ハラハラしながら毎日胸に耳を当てて聴いてた。だから今は時々で良いかなー」
『……ヤなこと朝から思い出させてごめん』
「ん?今はこう一緒に生きてるんだから結果はオーライでしょ。不可抗力だし仕方のなかった事なんだ……まあ、凄くビビったけどさ?
……ほんと、オマエといると飽きないよ、良い意味でも悪い意味でもね?」
優しく笑う悟。嬉しくって、包み込まれるような。私のほうがなんだかドキドキとしてきた。
少しベッドの上を泳ぐように少し上がって、彼の唇にちゅっ、と触れるだけの優しいキスをした。目の前できょとんとした、驚いた表情を見て私は笑った、そしてすぐにベッドにさっきの位置まで戻って耳をもう一度胸に当てる。もっと彼のどきどきとするリズムが聴きたいから。