第26章 だから師走というんです
寒空の下で長々と抱き合っていたからすっかり冷えたみたいで、熱気とともに香るあの美味しいチキン臭がかなり抑えられてる。温め直しをするならこの際いくらでも寄り道出来るけどさ?
浮遊感が一瞬止まり、また僅かにふんわりと浮く感覚。ポーン、という音と共にドアが開く。目的地の階層に着いたから悟が私の手を引いて通路へと出る。
首を左右に動かし周囲を確認すれば……なんかホテルとかみたいな通路だな…。
「ここ、ここ!」
いわゆるカードキー、その近くのパネルに彼は指を着けると解錠される音がして。ケーキをぶら下げる手でドアノブに触れると悟はガチャ、とドアを開けた。オレンジ色の柔らかい照明に照らされた落ち着いた内装が奥の方に見える。
満面の笑みで彼は私の手を引いて中へと押し込めた。
『うわっ、』
「はい、プレゼント!」
…?
プレゼント、とは…?
目の前には何もものは無い。ラッピングされた箱だとかリボンが掛けられてるだとか。そういうものはなく…。
一時的に硬直しゆっくりと、ヤケに自信たっぷりな笑顔の悟を見上げる。彼はちょっと体を前傾させて私の顔をドヤ顔のままで覗き込んだ。
「ん?驚いて声も出ない?もう契約してあるから今日から住んでも良いんだけど…」
『契約…住む?えっ……部屋、ですか??』
なに?え、部屋?部屋がプレゼント??想定外の事で思わず敬語になっちゃったよ。突然の事に困惑する私に彼も困惑し始めてる。
「えっ……僕また何かやっちゃいました?」
『あの、部屋がプレゼントって事です?』
「そうざんす」
『そうざんすか……』
「そうざんす」
ブーツを脱ぎ始める悟を見て私も上がるか、と脱ぐ。玄関さえ広く真新しい部屋というか。靴下で玄関マットの上に立つ私を悟が手を引いた。こっちこっち、とはしゃいでるみたいに。実際ににこにこと楽しそうなんだけど。
「春くらいから学生じゃなくなるから一応、ここが僕とオマエの新居って事で。それでも高専で色々仕事を頼みたいから、今使ってる寮の二部屋……僕の部屋を片付けてオマエの部屋だけ僕が仮に抑えとく。そうすれば今まで通りだし、高専で仕事で留まる時にオマエも使えるし……」
話をする悟にぐいぐいと引っ張られながら、モダンな内装をきょろきょろと見て奥の部屋へと来る。
そのまま悟は話しながら、今度は右へと私を引っ張っていった。奥にはキッチンが見えてる。