第26章 だから師走というんです
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夕刻は夜へと進み、寒空の下で私と彼は悟のジャケットのポケットの中、ぎゅっと手を握りしめてあっている。顔が寒くてもなんだか心が満たされたような暖かさを感じてる。
嬉しくて表情がどうしても緩みがちな顔を私はマフラーで口元を隠しながら。彼の場合サングラスで隠しきれていなくて、嬉しそうな表情を堂々と晒しながら歩いて車に戻り、彼が運転してその目的地へと案内してくれるみたいで。
「よーし、出発進行~!おーっ!」
『…おー(すっげー機嫌良いなー…)』
あんまり時間掛けるとケーキ作りは今日はナシ!になるよ、なんて言えない状況だよな、とテンションの高い悟を見て空気を読む。悟が用意してくれてるプレゼント。なんだか分かんないけど彼に委ねて幾つ目かの信号が青になった所で、楽しそうに運転をする悟の横顔をじっと見た。
『……ねえ、その目的地?って遠いの?』
「んー…そんなに遠くないよ、そろそろ着く感じ。場所的にはちょっと高専近くかなー、」
道を戻るというよりかは道を何本かズレてる場所というか。マジで何を用意してるのか分かんなくて。
考えながら、進行方向をきょろきょろと周辺の様子とかも合わせて見ながら、いつの間にか悟は建物の機械式駐車場に停車させた。
「さっ!とりあえずは車はここまで。荷物持って降りて降りて!」
にこにことご機嫌そうな悟。チキンはとにかくケーキは生物だからかな、と両手で袋を持ってると、ロックを掛け終わった悟が私からケーキの袋を受け取る。買ったものは全て悟が片手にぶら下げていて、そのままに靴を鳴らし、駐車スペースの音のこもる空間から雪の舞う外側へと進んだ。屋根が出ていて雪に触れない。このままどこに行くのかな…と期待と若干の不安を抱えながら、少し先を進む悟が自動ドアを開けていた。
振り返る悟はサングラスの奥の瞳を細めてる。
「こっちこっち!はーやーくっ」
入ってすぐ、エレベーター前で立ち止まる悟が振り返り開いたドアを閉まらないように片手で抑えてる。そこに『待って、』と少し早足で入ると彼も乗り込み、階層のボタンを押す。四階だった。
誰かの家か…それとも会わせたい人とか。顔の広い悟であるからその辺りを考えた。そして浮遊感を感じながらそっとポケットから出てる悟の手を握る。そのタイミングで私を見て微笑んでる。
「……チキンは温め直しだね」
『うん、そうだね』