第26章 だから師走というんです
『悟。私を好きになって、愛してくれてありがとう。あなたのお陰でこうして今を生きていられる、幸せでいられる。私が恋を出来たのが悟で良かった、旦那さんで良かったって、思ってるよ』
繋いでた手がするりと抜かれ、そのままに泣きそうな顔の悟が私を包み込むように片手で抱きしめられた。顔が見えない、けれども私以外の嗚咽が聴こえてきた。
「もぉ…っ、そうやって、泣かせんじゃねえよ…っ!僕はもうハルカしか好きにならねえし、絶対に死なないように守る、から…っ!もっともっと、オマエを今以上に幸せにするからっ!」
『さとる、痛い』
「ん、フフッごめんね…?ちょっと力の加減間違った…、」
ぎゅうう…、と痛いくらいに抱きしめられていた体が緩められた。ただでさえ筋肉量で分厚い胸板は窒息しそうだった。ただ優しさと彼の体温が急接近して暖かかったけど。
顔にかかる悟の毛先が少しひんやりとして、素肌をくすぐる。耳元で「ハルカ、」と優しい声色が囁いて彼の背を私も片手できゅ、と引き寄せる。
「……僕の事を好きになって、そして愛してくれてありがと。ハルカがさ、とても手に入れにくいものだって知ってたよ。家柄も、持ちうる一族の術式も……それに、僕の性格上、好きになってもらえるか、だったし。それでもハルカは僕の事をこんなにも愛してくれるんだもん。
……僕もとても幸せだよ」
互いに緩く抱きしめた腕を解いてやっとお互いの顔を見る。涙で濡れて目元がちょっと赤い。きっと私もそんな悟みたいな事になってるんだろうな、と思ったら互いに笑えてきた。なんで悲しくもないのにお互いに泣きあってんの…。
小さく笑いあった所でどちらからっていう事もなく口付けを交わす。触れて互いの体温を知り合うような暖かなキス。
もう一度ぎゅっと互いの体温をひとつにして少しだけ時を忘れたように抱きしめ合っていた。